「Noma」の René Redzep シェフ、「Geranium」の Rasmus Kofoed シェフ、「Relae」の Christian Puglisi シェフ。コペンハーゲンで活躍するどのシェフをとっても、アルバ産のトリュフや、ロスコフのオマール海老、アンダルジー地方のラードなんかを、かき集めて料理に使いようなまねはしない。その代わりに使用するのは、身近にある食材。大したものではないが、韻を踏むには十分なくらいの海産物、乳製品、ハーブ、野菜、豚肉、古代穀物等。
写真は、バラの花びらと、薫製魚。
彼らは、誠実さと正直さで勝負している。腰を屈めてそれを収穫し、家に持ち帰って料理するだけ。
田園料理を思わせるそれは、ラギヨールのシェフ、ミシェル・ブラ氏のような、修道士的要素をもっている。活気があって無邪気な料理。周辺の食材を優先的に使用しているものの、うまくガストロノミー風に仕上がっている。それは、すべての料理が、神聖なるエネルギー、劇的な優しさ、シンプル主義な魅惑が備わっているからだろう。「インスピレーション」を受けているらしい、どこかの料理に飽き飽きしてきている僕らにとっては、新鮮そのものだ。
「ノマ」の料理に、入り口は必要ない。料理の中に、海と田舎がこれでもかと言うくらい隠され、それは驚異的なアミューズブッシュの祝砲から始まった。海岸にそった大きな店内には、「バベットの晩餐会」にでてきそうな微光の中で、カーペットがひかれ、小枝と花が生けられたビンが、それぞれのテーブルに運ばれてくる。
この牧歌的な構成の中で、小さくて柔らかいものが運ばれてきた。天ぷら風に一瞬だけ揚げられた地衣類の何かは、蜘蛛の巣みたいに軽くて薄く、柔らかかった。
ここで、料理の方向性は、理解できる。
次の料理は、あつあつの石の上でまどろむ、ジューシーなラングスティン。まるで、ラングスティンが、岩の上で日向ぼっこをしているようにも見えた。完璧で、シンプルで、消化しやすい一品。
34歳のレネ・レゼッピがつくる料理には、カロリーの介入やナルシシックな落とし穴は、存在しない。その代わりに、センセーショナルで優しい部分が常在する。例えば、牡蠣なら、貝殻でつくった大きなココットの中に、牡蠣をのせるだけ。これこそ、北欧の介入、といえる料理で、料理が運ばれてくるタイミングまでもがすごかった。待ち時間はほどんどなく、繊細で、ベーシックながら信じられないくらい巧妙である。風味は、奥深いのに、仕上げの段階で、のほかだった。
店を後にした僕は、自分が地衣類の何かになってしまったかのように感じられ、通りすがる人に踏みつぶされないように気をつけた。
写真は、ハーブのトースト。
「ノマ」は、世界でも屈指のレストランであるといえよう。遊び心があり、田舎の香りがする料理。開明したレネ・レゼッピシェフの根源とそのハーブに、限りなく近い位置にある料理。またとない経験だった。
Noma
Strandgade 93
Tel : +45.32.96.32.97
www.noma.dk
一人約200€
Photos / F.Simon