エルヴェ・ティス氏が、フランス語辞典「ル・ロベール」宛に送った手紙のコピーを、ここで是非紹介したい。
やる気満々なこの手紙を読みながら笑い転げてしまった。もちろん反論は不可能である。
彼は、分子料理が、暗示的で奇妙、時には異国的、気にならない程度に不条理とは紙一重である事実を証明しながら、「たもの中にクローム製の雲みたいな物体をすくい上げる」という動作を説明するときに、辞典の責任者がどのくらい認識できているか、という事実をも明らかにしている。
エルべ・ティス氏の通達より:
残念なことですが、本日、フランス語辞典「ル・ロベール」の幹部に手紙を書かざる終えない状況になってしまったので、その旨をお知らせします。
拝啓
ムシュー ル・ディレクター、
ル・プティ・ロベールの巻中や広告部分に「分子料理」という表現が取り入れたことは、間接的でありながら、私にとって光栄なことです。
しかし、この言葉の定義に間違いがあることを、ここで指摘させて頂きます。
辞典内で分子料理の定義:
料理の科学的アプローチで、調理時に起こる物体の物理化学的反応の研究が基盤となり、食品の分子濃度を自然に変える。
分子料理は、「料理の科学的アプローチ」ではなく、化学実験の結果から生まれた調理方法で、新しい材料や調理法、調理器具を導入させるものです。ここでいう「新しい」という言葉は、あいまいではありますが、1980年以前のフランスや西欧各国の料理には存在しなかった、という意味で使っています。
また、驚いたことに、「基盤となり」という表現は、「根拠となり」という表現を好むであろう純粋主義者の非難をかうことでしょう。
また、残念なことに、分子料理は「食品の分子濃度を自然に変え」ません。まず第一に、すべての人工的介入は自然であるはずがないわけで、表現自体が無意味となります。この文章の作成者は、分子料理が一方にあり、またもう一方に分子ガストロノミーがあることを把握しきれていなかったのかもしれません。
そこで次号のために、ここで私が定義を記載します。
分子ガストロノミー
物理化学からみた科学の研究分野で、調理時に起こる変化現象のメカニズム研究。(1988年にイギリス人物理学者 Nicholas Kurti とフランス人化学者 Hervé This が導入)
分子料理
分子ガストロノミーの研究結果を使用した調理方法。調理技法の開発に貢献する。
敬具
さて、この料理に対する皆さんの距離感は?
By F.Simon
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