かねてから評判の高かった、レストラン「ル・レカミエ」を覚えているだろうか。
偉そうな面々、出版関係の常連客を喜ばせるための本棚とその著作著名人達、そして、オーナーのマルタン・レカミエ Martin Récamier 。
ずる賢い悪魔のような彼は、いつも自信たっぷりなのに、反面、気の優しい冗談好きでもあった。右に立つ者がいないくらい抜け目がなく、遊び好きで、皮肉もたっぷり言うし、怒りっぽかったりもした。おもちゃの小箱から、ゼンマイの勢いで飛び出してきたような人間。
その後、彼はレストランを売りに出す。
そして、スフレ料理で名の知れたシェフが、それを買い取り、レストラン「ラ・シガール・レカミエ」をオープンさせた。
現在/内装は、年季の入った色合いや、木張りの部分は全部取り除かれ、現在はつるつるの黄色に、すっかり塗り替えられた。昔のデコレーションを取り崩すとき、先をよく考えなかったのだろう。残念。昔は、温かい雰囲気が心地いい場所だったのに・・・。
だからといって、新しくなった内装が、最悪というわけではない。少し痩せぎすかもしれないが、また別のものだ。テーブル数がふえて、客席が少し窮屈になったことで、会計係が、月末にほっと肩をなでおろしているところが、目に浮かぶ。
しかし、やっぱり妙だ。
大昔の、きしるクランクを再度動かしたいわけではないが、昔の方が良かった。そこには、いろんな人のストーリーが詰まっていたような気がする。
もう一度造り直さなければならないのは、勇気のいる話。
正直言って、ここで流れるシネマには、感情的なものがない。
誠実さのない色合い、低音の響かない音楽、上辺だけの顔ばかり・・・。
空気/きっと空気のせいだ。こんなに息切れしたスフレに仕上がるのは・・・。
この驚異的で、突拍子で、無防備なパティシエがつくるスフレには、今まであった彼らしい聡明感が全く見られない。
チーズスフレなんて、全く膨らまずに、頼りなく少しだけ起き上がったかと思うと、そこで止まって、情けないはにかんだ表面に仕上がり、臆病で引きつった笑いを誘う。
スフレといえるか?
平均よりもっと悪い。
デザートは、キャラメルのスフレで、それにはちゃんと仕事をした後跡が見られ、気の利いたものだった。
サービス/スフレとは反対に、サービスの人間は、それぞれしっかり仕事をしている。曖昧に優しく、少し慌ただしい感じ。
客層/出版関係の人が、まだ出入りしているだろうとは想像していたけれど、やはりいた。ジャーナリストのフィリップ・テッソン。誰かを探しているようだった。(きっと自分探し?)
昼の時間帯には、いくつかのテーブルで、会話のやり取りが激しく行われていた。困惑しながらも感情的に話す二人の老父は、まるでナチスに対抗するベルギー戦線みたいで、それがかなり印象的だった。
La Cigale Récamier
4, rue Récamier - 75007 Paris
Tel. 01 45 48 86 58
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