このレストランへ足を踏み入れた時、僕の体は完全に疲れ果てていた。
8日間で16回におよぶ、高級レストランでの食事。
いいように聞こえるが、離反している。
そんな一方で、レストランの不甲斐なさや、逆にまた、素晴らしさも体験できた。
そしてこの美食旅行の最後となるディナーに、「カーサ・ブルータス」は、カンテサンスを指定してきた。
食べ終わる頃になってから、若いシェフが厨房から顔を出した。
彼の名はシンゾー・キシダ。
一目見ただけで、料理に人生をかけている、その信念が伝わってくる。
お世辞や、名誉や、金だけを追求しているわけではないことを語る彼の目は、はるか遠くを見つめていた。
その繊細な感性から、おびえながらも突っ走り、疑惑と疑問と自答に打ちのめされた料理の世界へ潜り込んでいるようだ。
飾り気のない無垢なゾーンは、我々がもっとも好むものだが、彼はそこへ入り込むために、感激して一から学んだ伝統フランス料理を、うまく交わすこととさえできている。それは、無駄なもの、ソースや重くてカロリックな材料を省いた料理だ。
ここに、骨格ははっきりしていながらも、強すぎる印象や激しい彩色の混ざらない料理が出来上がっていた。
カサゴ、新玉ねぎのスープやほろほろ鳥のロティーがその一例だが、発泡性のガスパチョの中にあるだろうミネラル感を思わせる、純粋で忠実な料理。
しかし、心構えして行くことだ。
軽く見えても、その仕事は真剣そのもので、ワインと一緒に頂くこの料理には、素直に感激してしまう。
間違いなく、今回試食し続けたレストランの中でも上位に入るレストラン。
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