パリのガストロノミーはハムスターのようにぐるぐると駆け回り、時にはちょっとした幸せも運んでくれる。
井戸の中からほとんど裸で顔を出した透明なアイデア。
いいレストランを経営することは、左打ちでテニスをする程度のことかもしれないと思ってしまう。しかし、実際にラケットを手にしてみればわかるだろうが、現実はあまくない。
15区のはずれにある、なんでもない道のなんでもない正面玄関。
その夜は、満席ではなかった。
だるくほろ酔いの3人のミュージシャンが、アコーデオンとトランペットで沈黙をかき立てる。彼らとその頑固な華やかさとは反対に、建物自体は静まり返っていた。
宵はここから始まる。
客層/フィガロスコープの読者が、渡されたメニューとにらめっこをしていた。彼らは、このレストランがフィガロスコープの「話題のレストラン」欄で3つのハートマークを獲得したのを見て、足を運んだと見える。
ハートマークを3つ授かったレストランは、その価値のある料理を毎日サービスできているのだろうか?
店のオーナーやシェフと話したがっている、すこし興奮して機嫌のいい女性客がいた。
しかし店員は、このフィガロスコープの名誉を授かりながらも言葉少なで、でもこの降って落ちてきたハートマークに迷惑していなげな様子だった。
オーナーは、グラスを拭きながらこの女性と会話を交わす。
「彼、来ました?」女性が尋ねる。
「誰です?」グラスを持って、布巾をぐるぐるまわしながら、男が返す。
「フランソワ・シモンよー」
男は平然と答える「いいえ、エマニュエル・リュバンでした。」
親愛なるマダム。
心配しないでもらいたい。あなたのような客は、シェフの顔を立て、歓迎され、その歯磨き粉みたいに暑い情熱は、レストランには欠かせないものだから。パリのレストランを巡回し続けた先には、レストランがハートマークを3つ、ご褒美にくれるはずだろう。
コース/これだけではない。ハートマーク、ハムスター、布巾はもちろん、ルーペとメモ帳を取り出さなければならない時は来る。
トマトとキュウリのガスパチョは、フレッシュでよかった。メインは、40ユーロのコースメニューについてくるオマール。黒板にはポテトフライと一緒にでてくるはずだったがそうではなかったので、子供の情熱を持ってフライドポテトを再度注文する。
驚異。
歓喜でピカピカ光った、直球の料理。
デザートは、一生懸命つくったのに結果には表れていない感じで(婉曲的な言い方かもしれないが、良し悪しのつけがたい焼き具合のクラフティ、チョコレートクリーム添え)、最後になって失敗していた。
しかし・・・
味は?
もちろん、うまかった。シンプルでダイレクトで、何の型にもはまっていない料理人の料理だ。
ただ、肝心な何かが欠けているだけだった。
頭をカウンターにぶつけるほど感動する料理ではないが、親切で共感できて、確かにうまい。他のレストランによく見られる商業的で冷笑的な態度はみられず、無邪気さを仕事場にまで持ってきた2人の仲良しが、客がレストランで期待しているものをわかり据えた雰囲気だ。
世紀的な響きではないが、余韻が気持ちいい鐘の音が似合うレストラン。
価格/ケルシーのテーブルワインを小さなカラフで飲んで、100ユーロ以下。
いいんじゃない、うまいんだから。
行くべき?/行きたいでしょ?外出許可はでています。
Le Grand Pan
20, rue Rosenwald - 75015 Paris
T : 01 42 50 02 50
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