これはよかった。「カフェ・プレイエル」でアルノー・ダガン Arnaud Daguin の生還
一度行ったレストランへ、もう一度足を運ぶのはなぜだろう。きっと、その店が他の店と違う要素を持っているからである。単純な話に聞こえるかもしれないが、大半のレストランへ再度行かない理由は、その店が他の店と似た要素をもっているからである。それらの店は、相互交換できてしまうのだ。同じ料理に、似た料理名、そっくりなメートル・ドテルに、同じ服装で同じ口から発音される超現実的な分節法。これらの要素をもって、現代の高級ガストロノミー界が、嘆かれる状況が理解できる。ガイドブックからの脅しに身動きも取れず、脱線することを常に恐れる。20世紀の境遇から、何も変わっていない。
僕は個人的に、そんな状況にうんざりしている。感激がほぼ消えさって透過し、料理に触れることさえ戸惑いを見せてしまう。確かにそれらの料理は、正確でおいしくもある。しかし、普段見慣れない食事への服従態度で料理に向かわなければ、何も伝わってくるものがない。
だから、オリジナル性があって、他の店とは違う要素を見つけたら、素直に喜べてしまうのだろう。他では見たことがない料理の出現に、悲鳴を上げることができるというのは、うれしいことである。
そんな経験が出来るのは、パリの最新レストラン「カフェ・プレイエル」。エレン・サミュエル Hélène Samuel とミカエル・エズンバーム Michaël Ejznbaum が仕切るこの店は、いろんなシェフが、各シーズンごとに、そのアイデアと才能を試しにやってくる。
そして今回、ローラ・ザヴァン、ソニア・エズグリアンを引き継いだのは、僕の大好きなシェフ、アルノー・ダガンだ。「レ・プラタン Les Platanes」、バスク地方にある「ラ・メゾン・エギア La Maison Hegia 」の頃から、気になっていたシェフである。「パン・コティディアン Pain Quotidien」にいたのは、ほんの一瞬の話で、今回、話題の「サル・プレイエル」の2階へと、荷を降ろした。
ランチタイムと、コンサートがある夜のみ営業。店内は、うまくインスピレーションが効いていて、壁には音楽が染みつき、安心感のある複雑な雰囲気を作り出す。空間ボリュームも、ゆったりと深呼吸ができるような広がりをみせ、自立性がある。だから料理もその恩恵をかい、珍しい出来栄えと、テニスラケットのど真ん中に球が当たるようなタッチがきいている。みなさんもきっと気に入るに違いない。
生きのこと焼いたきのこのミックス、パセリのグリーンオイル添え 13ユーロ
白身魚のタルタル、ウイキョウとひょうたんの種のグリル、レモンのコンフィを加えたひよこ豆のピューレ 14ユーロ
本当の偽フォアグラハンバーガー、セロリとミックスサラダ添え 20ユーロ
フォアグラと西洋ネギ入り、鱈のブランダッド、ミックスサラダ添え 22ユーロ
まさに、優しさと気前の良さが感じられる、オリジナルな料理。頭を抱える必要もなく、クレジットカードを擦り切らせる心配もない。
新学期、おすすめレストランの一件だ。
Café Pleyel
252, rue du Faubourg Saint Honoré - 75008 Paris
Tel : 01 53 75 28 44
www.cafesallepleyel.com
Photos/F.Simon
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