道ばたで売られているクレープは、奇妙な世界、料理の世界とは又違う領域に属している。
クレープ売り場の素朴な小屋が、ブラッスリーの片隅に投げ出されている様子は、異臭を放ち、同世界のものではないかのように取り扱われているからだろう。
味にしても同様である。それらのクレープは、クレープの中でも貴族階級に属するものではない。真ん中が柔らかくて、周りがかりかり。
ここは、ポワソ二エール通りとフォーブール・モンマルトル通りの角にある「オー・メイヤー・クレープ・ドゥ・パリ (パリで一番うまいクレープ屋)」という、大ぼらふきな名前を持つクレープ屋。
そのあばらやの管理人である、2人のお兄ちゃんに、店名の由来、つまり誰が審査して付けられた名前かを尋ねてみた。
「みんな」
彼らは、けなげにそう答えた。ふむふむ。
脚のついた丸テーブル、英語表示、役員達、教皇的な待ち時間がつきものの、ガストロノミーランドとは、一味違う。
ここは嘲笑の世界、つまり道端である。思い切って、口に入れて、それだけでいい。
だからといって、クレープはそれほどまずくはなく、腹にもたれる熱々の包帯、タオルかスポンジでできたトンネル、吹聴が出来てしまうくらいの導管、とでも表現できる。
こんなクレープこそが、無宗教のガストロノミー界の食べ物である。腹が減ったときに、心を温めてくれる食べ物。それ以外のものなんて、どうやら興味ないらしい。
Photo/
F.Simon