彼女は料理本出版の女王だ。
ミルクがかったそのブロンドの髪が、本屋では光り輝いて、ガストロノミー界をも揺るがしている。
その原因を追求しよう。
幸いにも、トリッシュ・ドゥセヌの到来で、マッチョで再現不可能なレッスンやレシピを披露するシェフのもったいぶった学者ぶりが名を馳せた時代に、別れを告げた。
あきれかえった読者たちは、もっとシンプルでアクセス可能な価値観を求めていた。
要するに、もっと寛大な料理のレシピ。
そうじゃなければ、見ただけで再現したくなるようなもの。
そして、思わず口にしたくなるようなもの。
つまりそれが彼女のレシピ。
そんなわけで、出版という窓口から、彼女はこの世界にやってきた。
彼女は、僕らの肩に手をかけて応援しながら、失敗を笑い飛ばしてくれる。
料理界はすべて、そんな彼女を見習わなければならない。
気を許してしまうやさしさと、兄弟のような思いやり。
しかしながら、トリッシュ・デゥセヌは、クリームと小麦粉と蜂蜜だけでつくられた人間ではない。
彼女は生きている。
その隠れ家、もしくは隠遁の地とも言えるパリ20区のピレネー通りで、彼女は世界を、彼女がもつイメージの中に創り直した。
浄化しているけれど温かみがあって、気前がいいけれど繊細。
なんというパラドックスな世界!
彼女の情熱が大きく振動するからだろう。建物の壁には大きな亀裂が、彼女の住む6階まで走っている。
家の中まで続いているその割れ目は、有毒な魅力を持つカナダ人グループ、Coco Rosie のリズムがその一味をしめているかもしれない。
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