その刃物はごく近くを遮った。
日曜の正午、僕は東京の秋葉原でミーと会う約束をしていた。
ミーは電気製品に目がなく、その深い知識である電気屋のコーナーを案内してくれる予定だった。しかもこの界隈は、漫画やオタクやビデオゲームや、召使いに変身したウェイトレスがいるカフェなんかがあふれる場所だ。
11時。僕はミーに電話をかけた。
ミーが何を演技しているのかわかりかねたが、ぐずぐずとした声で、彼は電話にでた。単に病気だったらしい。
だから僕らの待ち合わせはキャンセルされた。
「しまったなぁ」
にもかかわらず、僕は秋葉原へと足を運んだ。
ビッグカメラという、信じられないくらいファンタジックで、でも正面玄関でおおよそのことは想像できる電気屋で我慢する方が、ホテルでじっとしているよりましだった。
そして店から出た僕は、街がショックのどん底に沈んでいるのを目の当たりにした。
刃物をもったある男が、人を次々に殺していったという。事件があった場所は、まさに僕がミーと待ち合わせの約束をしていた、その場所だった。
静岡県出身、25歳の殺人犯は、「人生に疲れた」と話していたらしい。2トントラックで人ごみの中に突っ込んだ後、運転席から飛び降りて、刃物を振りかざしたという。7人が命を失い、15人が重軽傷をおった。
人生とは奇妙なものだ。
壊れやすくて、不安定にふわふわしていて、終わったかと思うとまた始まる。死は目の前あって、またまた遠くにも存在する。
僕は、猛烈な口狭炎に体が固まり、しばらくは何も口に出来なかった。
PHoto/ILOVETOKYO.COM
コメント