セヴロへ来ると、メニューを開く必要はないと思うことが多い。黒板メニューでさえ毎回必須だとは思わない。というのもここの客はみんな、牛の背肉やタルタル、子牛の胆肉を味わいに来ると決まっているからだ。
この店では、ユーゴ・デノワイエの格式あるメゾンから肉を仕入れている。多くの客が、オーナーを下の名前でよび、店に足を踏み入れた瞬間から、何を食べるかすでに大方は決めている。
それもそのはず。このプラント通りにあるレストランに予約の電話を入れた時点から、客はすでに、この店のテーブルについている自分の姿を想像しているからだ。
それもおかしくはない。
レストランに来る喜びは、たいていの場合、その店へ向かう準備だったり、待ち時間だったり、どんどん膨らんでいく欲望だったりするからだ。
厨房の奥からは、加熱台の上で肉がジュージュー振動している音が聞こえる。そして調理後のそれは、一番シンプルな格好、つまり真っ裸もしくはそれに近い状態で、メトロノミカルに運ばれてくる。
タルタルときたら、はつらつとした最高の状態で、棍棒で一発殴られたかと思うくらいのショックをくらう。
ここで食べる料理は全部こうだ。隊長みたいなメイン料理。
魔法のような揚げたてのポテトフライも、「裸」という意味で真実により近い。
頭をかがめて料理を口にいれ、よく味わってから、ワインも口にする。かみ締めるように寒い冬の中、どんどん麻痺していく自分がわかる。
こんな経験の後には何が出来るだろう。
カリカリに焼けたパンの上にのったシャヴィニョルチーズのかけらをとって、ワインを飲み干し、満喫して赤くなった目で、店を後にした。
客層 : 並外れ。きっと、一般人に変装したどこかのシェフたちだろう。彼らはいつも保安機動隊みたいな格好をしているから、見分けるのが簡単である。それから、ブルジョワの柄が悪くなった版、というよりやくざといったほうが近い連中。それから、常連さんと戦場にきた食欲たち。暖かい雰囲気のなかでぎゅうぎゅうにくっついたテーブルは、いい店である証拠だ。
サービス : ムッシュー・ウィリアムが皆をまとめている。真剣に見張りつづける彼は、身をかくしながらいいワインとポテトフライを客席へ投げつける。正弦曲線上のユーモアの持ち主だが、この夜、彼はどうやら雲の中にいたらしい。平然として機嫌がよかった。実は毎回、よく観察するべきなのかもしれない。
価格 : 一人約50ユーロ。でも黒板メニューのワインメニューからは地獄行きのボトルが見つかる。
行くべき? : イエス
Le Severo
8, rue des Plantes - 75014 Paris
T. 01 45 40 40 91
土日休み
Photo/F.Simon
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