昨日の昼に、ジュアン・レ・パンにあるデ・ベル・リヴホテルのレストランのテラスで、この本を読み終えた。
ビル・ビュフォード著の “ Chaud Brûlant ”(原題 “ Heat ”)
ガストロノミーが軽いフード感覚で表現されている筆体は、意外に新鮮だった。
この本は、振り子時計を定時に合わせ、バターをバター入れに直させてくれるような本。
一体何がこの著者を、ニューヨークで流行りの有名レストラン、マリオバタリの厨房の見習い研修へと駆り立てたのか。
もちろん、好奇心があって、食欲も旺盛だったに違いない。
読者のサディックな快感のために、著者は筆をとって厨房内の地獄模様を描いた。
一つ目の間接から爪まで切ってしまった人差し指、やけど、水ぶくれ、冷たい霧が漂う冷蔵庫の中で凍る汗、いじめ、ひどいあしらい、ひっくり返ったフライパン、注文の遅れ・・・。
50数ページまで進むころには、こちらの居心地さえ悪くなってくる。
本の中に入り込んで、彼の金槌ち人生を応援したくなる。
料理は、もはや情熱ではなく、ある種の薬物、それも猛毒のドラッグになった。
ドラムの音は響いているが、本物の知識も豊富なこの本の中で、読者はニューヨークやトスカーナを横切り、Tortelli di Zuccaのようなレシピを振り返り、まるでソース・サバイヨンをつくるみたいに真剣にソース・オランデーズを泡立てる英国人マルコ・ピエールのような、豪快でゴシックな人物に出会う。
常に詩的というわけではないが、乱雑で、食いしん坊で、しつこく、うさんくさいが風味深い。
サービスの悲惨極まる記述を除いても、料理の感性やその起源の追求など、感情高まるシーンもある。
手作りの家庭料理は、単に良識を振り返るだけの話だけれど、何でもかんでも食べてしまう壁に世界が突進している事態を思い出させ、僕らに救いの手を差しのべ、リフレッシュさせてくれるシーンがある。
料理学校、食堂、デパートなんかにこの本を配って、読んでもらうべきだろう。
ビル・ビュフォードのこの本は、知識を高めたり、ガストロノミーの経験を深めたりできるだけではなく、人生で出くわすひとつまみの辛酸まで教えてくれる。
Chaud Brûlant(原題 Heat)
出版 Christian Bourgois
仏訳 Isabelle Chapman
25€
コメント