サン・マンデにあるアパートで、クリスチャン・ミヨが、何をするという訳でもなく、昔の拳銃が飾られたケースを除いている様子が思い浮かぶ。
ただ純粋に、快感を味わうというためだけに、時々ケースからそれらの銃を一つ一つ取り出し、磨き上げる。使い込まれて炭のたまったそれらの拳銃にこめられた感情を、再び味わうためだけに。
彼は、アンリ・ゴーとともに、“ヌーベル・キュイジーヌ”(Les Dix Commandements de la nouvelle cuisine 1973)を創刊し、そして何よりグルメの銀河に革新を起こした鍵の人物だ。
料理人はいきなり有名人になって威張りだし、スポーツカーを乗り回しはじめる。そして、料理と会計は暴力的に奮い上げられた。皿の上はどんどん省略化されていき、勘定は発狂的なものとなった。
それ以来、クリスチャン・ミヨは表舞台から身を引く。
貝の身を取ちだすハサミを手放し、ペンを取って物書きに専念したのだ。
そして“les Fous du Palais”や“Au galop des hussards”(アカデミーフランセーズのグランプリとジョセフカッセル賞を受賞)などの、著名作を生み出した。
彼が高価な古い自動拳銃の弾倉をくるくるとまわす、その様子を探りにいこう。
避けられない事態が起こる予感。
そして銃弾はひとりでに発射された。
“Le Guide des restaurants fantômes (Ed. Plon)”
この本の中で見られる、クリスチャン・ミヨの滑稽極まる皮肉や、意地悪な弁舌は、嬉しいばかり。
真剣に面白く、架空のレストランを綴った文章の中で見られる、レストラン“鼻水”の、ヤギの毛皮で包まれた毛深いバーカウンターはその一例。
著者は前書きでこう語る。
「全部本当にあった話で、後は作り話」
フランス社会の滑稽さも、嬉しくなるくらい描写されている。
レモン汁でマリネされ、こそばゆい産毛を取り除いた、歓喜高まるその文章は、著名シェフたちが口の中でほほ肉を噛み締めている姿を想像させる。
時々、クリスチャン・ミヨに、もう幽霊としてだけ出現しないで、一回だけ、ただ冗談半分でいいから、表舞台に戻ってきて、ペテン師を脅し、乳化剤の親分やスパイの拷問者たちを、影からそっと狙い撃ちしてほしい。
公共の衛生を考えた一冊。
Le Guide des Restaurants fantômes
クリスチャン・ミヨ著
http://www.amazon.fr/guide-restaurants-fantômes-Ridicules-française/dp/2259206999/ref=sr_1_1/171-0786556-3457806?ie=UTF8&s=books&qid=1191862073&sr=8-1
Photo / F.Simon
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