191もの「マカロン」を日本のキャピタルに振りまきながら、ミシュランは、ガストロノミー界に大きなパンチを食らわせた。
数ヶ月前から、すでに飲食業界人は、ミシュランの東京版発表を、固唾をのんで待っていた。星がつくだろうレストランは、あちらこちらで噂されていたが、月曜日の結果発表が、この業界に大爆発を起こすことなど、誰も想像していなかった。
本日水曜、英語版と日本語版で発売されたこのミシュランガイドブック。
108年の著名フランスガイドブックの歴史上初めて、150件ものレストラン(日本料理店が60%、フランス料理店は44件がノミネート)が少なくとも1つの星を獲得した。
パリが97個、ニューヨークが54個のところを、東京は191個ものを輝くガラクタを集めたというわけだ。
ミシュランの代表、ジャン=リュック・ナレはこう語る。
「 星がついたレストランは、使用している食材の質がずば抜けてよかった。火の入れ加減、ノウハウの伝達、シェフの偉力等、すべてにおいて優れており、伝統を尊重しながらもどんどん開発されている料理が、素晴らしいレストランだった。」
ここで早くも、アングロサクソン系のメディアは、辛口批評。
イギリスのガーディアン紙は、「フランスに与えた平手打ちではないか」と冷笑した。
今回注目すべきことは、このミシュラン東京版の発売が、ガストロノミー界に緩やかな変化をもたらしたことだ。
パリが、世界一うまいものが食える街でなくなったことは、十年も前から承知だ。世界中の旅行客が、フランスの伝統料理をパリで食したがるからである。求められているこてこてのフランス料理、子牛のブランケットやポトフやステーキ・フリットをメニューから取り除く必要がどうしてあろうか。
しかし改革はほんの少しずつ、セーヌ川沿いで前進している。フランス人はコースメニューを絶賛し、観光客はフランス伝統料理に歓声をあげる。
その間、伝統料理の鎖にしばられていない国や街は、いっそう輝きを増すというわけだ。
名高いレストランが多くなったロンドンでは、エンターテイメントっぽい快楽を混ぜてサービスしてくれるし、ニューヨークをはじめ、ソウル、イスタンブール、シドニー、大阪も同じような光線が通っていて、ガストロノミーは思い切って一足先を走りたい願望で溢れかえっている。
そして今、どうして東京のこの街と、それに伴う3300万人もの住民が表舞台に?
ことはいたってシンプルだ。
食の話題になると、この街の感心は宗教的に急上昇する。
この国の人間は、食世界に感激し、ジャン=ポール・エヴァンのショコラショーを口にしたり、アトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブションで食事するために、平気で3時間の順番待ちができる。
世界一大きな、築地の魚市場へ行ってみたら手っ取り早い。この街が普通の街でないことがわかるだろう。
ゾラとジョージ・オーウェルの間を彷徨う雰囲気のなか、6万人もの人間がぐるぐると行き交い、1日250万キロもの魚が、アドレナリン溢れる中、売り買いされる。(ちなみにランジス市場は255トン)
パリのサン・ラザール駅は一日20万人もの人間が撹拌するが、ここ伊勢丹では、一日326万人もの人間が、店の売り上げに火花を散らしあっている。
レストランにしても,狂気は同じだ。
その数、東京だけでも13万8千件存在する。(パリは1万2千5百件)
世界で一番うまいクロワッサン、この世で一番うまいピザ等々、ここでは何でも手に入る。
また東京では、イタリア料理店は存在しない。
サルディーニャ、ナポリタン、トスカーナ、シシリア等々、イタリア料理は各地方専門店に分別されるからだ。
欧米ではその料理によって、ピラミッド状のヒエラルキーができるが、ここでは会席料亭、寿司屋、ラーメン屋、そば屋、うどん屋、焼き鳥屋等々、店によってそのスタイルが、完全に異なる。それぞれの分野が区分されているから、料理間での上下関係は存在せず、それそれの分野のレベルは一段と高くなる。
それに加え、東京人は無限の好奇心をもっている。
新しいものや輸入品に目がなく、東京が、商品や食のシーンで最もわくわくしてしまう街である訳がわかる。
この目のくらむようなメガロポリスの中で、他国の大都市なんて、比較の対象にならない。最新のエキゾチィズムがここにあるといえるだろう。
言語の壁、不安の衝撃、完璧さへの驚異、快感な陶酔。
イミテーションの中にはまった日本のステレオタイプからは程遠い。
ミシュランはたった5人の審査員で、不可能にみえた難事をやり遂げた。
多くの人間が、一筋縄では行かない評価結果に、不信感をもち、シェフや評論家やブロガーの間では火花が散った。
また、ミシュランはそれほど気にしていないようだったが、この評価結果に対する批評を真正面から浴びたのは、今回3つ星に輝いた「すきやばし次郎」だった。
ジョエル・ロブションのレストラン(これで彼は17個もの星を世界で獲得)、ブルノ・メナールの「ロオジエ」、パリのアストランスを思わせるフランスからインスピレーションをたっぷり受けた「カンテサンス」に、「すきやきばし次郎」は少し距離をおきながらも、並ぶことになるというわけだ。
世界は変わった。
東京の街が発するメッセージは明瞭だ。
料理は異文化に触れることでよりその脅威を増す。
この点、パリはかなり遅れをとっているといえるだろう。
強い文化とは、侵略されて、より豊かになっていくことを恐れない文化だ。
さて、2つ星を獲得したレストランは:
エメ・ヴィベール、トロワグロ、醍醐、えさき、福田家、菱沼、一文字、石かわ、菊の井、湖月、アトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション、ル・マンジュ・トゥー、
ピエール・ガニェール、れい家菜、ASO、龍吟、サンパウ、さわ田、鮨 かねさか、拓、つきじ 植むら、つきじ やまもと、トゥエンティ・ワン、臼杵ふぐ山田屋、和幸、
Photo / F.Simon 一番上の料理はロオジエのシェフ、ブルノー・メナールのもの。
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