ブルターニュ地方だったら、サン・ジョアキム Saint Joachim の「ラ・マール・オー・ズワゾー La Mare aux Oiseaux」や、サン・ブリヤック Saint Brieuc の「ユパラ Youpala」がいい例だ。
僕が、いい店ばかりを集めてみんなに紹介し、四方八方に耳打ちしまくっていることは事実だ。こっちとしては、八の字を描きながら、でんぎく畑をでんぐり返しし続けているような気分。まるでテックス・アブリーのアニメの世界。
主人公(僕)は、死にものぐるいで遠方へ駆け出し、雪の積もる鋭峰に建った木小屋へ飛び込んだかと思うと、25個もの鎖錠を8回りもして閉じこもる。額に汗を流しながら心臓ドキドキで振り返ってみたら、そこにはすでに悪党(読者)が、パイプ煙草を吹かしながらゆうゆうと座っていた・・・。
読者を悪くいっている訳ではない。ただ、行動が素早すぎると感じてしまうことがしばしばあるだけ。
まぁ、それも悪くないけどね。
モッツァレラチーズで作ったボールでピンポンをしながら、ローランがあることを思いついた。
「最近の悩みは、あまりに完璧すぎるレストランで退屈してしまうことだ。作家のロッシュフーコーみたいに、客に気に入られる部分は、長所よりもむしろ弱点である部分。こんなことだから、物事はどんどん趣味の悪い方向へと進み、僕らの人生がますます厄介になる。」
もともと、ぼくらの人生はそうも簡単なものではないが、レストランが完璧なときには、ちょっとやりすぎではないかと感じてしまうのは確かだ。
そんな状況に遭遇した場合、つるつるのデザインホテルの一部屋に足を踏み入れてしまった自分を想像せずにはいられない。
完璧に整った部屋で、デザイン系媒体のカメラマンを待ちぼうけているかのよう。とって付けたようなスーツケースと旅行鞄。パリの都市自転車を思わすもぐら色絨毯に合わない僕のベスト。
・・・無念。
そういった感情は、各地のレストランで、僕が感じてきたことだ。
この類いのレストランでは、確かにうまいものにはありつけるが、偉大な泰山を前に一人でアカペラを絶唱したがる傾向にある。彼らを崇めて絶賛してくれる観客だけを求めているというわけ。
客としてはいい迷惑だけどね。
だから、半熟卵の上で回りながら悩んでいるより、言いたいことを言ってしまおう。
今回のレストランは「イティネレール Itinéraires 」。
もちろんパリにあるこの店は、ほとんど苦労なく競技馬に乗馬しているような雰囲気を持つ。最強の自然と親切さとグルメ度。ずっと前から僕を待っていてくれたんじゃないかという気持ちさえしてくる。
アスパラガスのフォアグラヴィネガー添え、鰹のリエットのピクルスソルベ添え、仔羊の背肉とエンドウ豆のクリーム、ミントと新玉ねぎ添え、デザートにはバニラアイスののったイチゴとルバーブの一皿等、黒板メニューは元気に歌を口ずさんでいた。
ポントワーズ通りの前レストラン「トゥトゥン」を乗っ取ったこの厨房チームは、初めて目にする顔ぶれではない。ちょっと思い起こしてみると、彼らはポールベール通り界隈でも優秀なレストランの一つ「ル・タン・オ・タン Le Temps au Tamps」の厨房にいた。シルヴァン・ソンドラが独り立ちして、この感じのイイ店を開いたと言うわけ。
足を運んでみたらお分かりだろうが、繊細で、うまくて、バカ高くなくて、今週の最優秀レストランに即時決定してしまったレストラン。
僕らはレストランに向かう時、うんざりしてしまうパーフェクションやアーリア人を思わせる素晴らしさを、必ずしも求めてはいない。
寛大さ、親切さ、そして心の隠った料理に、僕らは大きく深呼吸できるのだ。
Itinéraires
5, rue de Pontoise - 75005 Paris
T. 01 46 33 60 11
1人約29〜34ユーロ
日・月休み