もうみなさんも、このシェフをご存知に違いない。このブログでも、オープン前から応援し、店舗を見つけるために困難していた時期や、詐欺に合わないかどうかという不安な時期も、そっと見守ってきた。共通の友達がきっかけで、初めて彼と話す機会を得て以来、よく一緒にカフェを飲む仲になった。その場で、決まってケイは、僕の意見を聞きたがった。はっきりいって、こればかりは、僕の役目ではない。批評家は、アドバイザーではないからである。自分のポジションを、きちんと把握しておかなければならなかった。だから、僕は自分のうんちくを並べるよりも、もっぱら彼の話を聞く一方だった。しかも、唯一、僕が与えたアドバイスを、聞き入れなかった。もし、彼が僕のアドバイスに従っていたのなら、僕も鼻が高かったことだが、彼は、自分の決断に従った。僕は、ケイのそういった面を尊敬する。
6月終わりに、彼のレストランでの食事。
ケイ・コバヤシのレストランは、客を一瞬むっとさせかねない、儀式的要素がある。つるつるの内装、きちんとした身なり、客が料理を選べない、デギュスタシオンメニュー。料理は、シェフが決める皿のパレードとなり、その傲慢さに、食欲をなくしてしまう、といっても、過言ではない。食欲の度合いと、自由さは、客の権利であることは、周知の事実だ。シェフは、そういった分野に、侵入するというリスクを犯した。だから、彼は、僕らの期待にピッタリあうものを、提供しなければならない。
若くして驚くべき人物、ケイ。デュカス大国のプラザアテネで、ジャン=フランソワ・ピエージュ、そしてクリストフ・モレと一緒にやってきた彼が、高級ガストロノミーの世界に、ファンファーレなしで登場した。
場所選びも、リスクが高かった。ミシュラン嫌いのジェラール・ブッソンの跡地を引き継いだからだ。そんなハードルの中、ケイが、信じられないことをやってのけた。オープン一年にして、ミシュランの1つ星を獲得したのだ。びっくりしたかって?いや、想像はできた。彼の輝かしく詩的なデモンストレーションは、2つ星でもおかしくはない。
料理
ケイがつくる料理の構成は、丁寧に並べられた食材のコンポジションにある。もちろん、日本からのインスピレーションも各所に見られ、風景のように仕上げられた料理は、温和さと快活感、対位法が交じり合う。それは、さまざまなテロワールがびっくりするくらい凝縮された料理で、そのテロワールは、ケイが夫人とのバカンス先で、実際に目にしているものだ。アルザス、イタリア、プロヴァンス等。ケイは、彼自身の個性的な言語を作った。それは、世界中からかき集めた食材と、目を疑うようなデリケートさが、キーワードだ。
オマールのロティーとその足、トマト、ジロール茸、尻尾のファルシ入りの頭、生ノワゼットのスライス。ロティーして甘く味付けした鳩には、スパイスのきいた味噌をきかせ、そのソースでコンフィにした腿肉と。
どの料理も、僕らを夢中にして、不思議な気持ちにさせる。がっかりするのは、極まれなことだ。なぜなら、皿の上には、彼の追求心と、ガストロノミーの根本がベースとなった風味が、見事に両立しているからである。
客層
食通や美食家たち。そのおかげで、店内は勤勉で、静か。
行くべき?
安心してどうぞ!
価格
7月1日から、昼が45ユーロと78ユーロ。夜が90ユーロと110ユーロ。たしかに安くはないが、その価値はある。
Kei
5, rue du Coq-Héron
75001 Paris
Tel : 01 42 33 14 74
日月休み
メトロ Les Halles 又は、 Louvre-Rivoli
Photos / F.Simon