僕らが訪れた夜は、人生と仕事に疲れきった律儀げな男が、隣の席に座っていた。前菜抜きで、直接メイン料理を注文したいらしい。すると短気なオーナーは、
「うちは軽食屋じゃなくて、レストランだよ。うちの売り上げはどうしてくれるんだい。」
「ぼくは常連の隣人じゃないか」
「関係ないね。うちにきたら、食べなきゃいけない」
苦笑いのワンシーン。完全にオーナーの標的になったその男は、ぼさぼさの頭でいかにも退職者の顔をしていた。幸運にも、彼はオーナーの傲慢さには動じず、大量にあるその鼻毛さえ、びくとも動かさなかった。このケチなはったり屋の攻撃を、人ごとのように応じていた。
僕の方は、と言ったら、うってつけの生きた「楯」と一緒だった。髪にメッシュが入り、太らないかどうかを気にしだした、思春期前の女の子。オーナーは、ちょっといやそうな様子を見せたが、それでもめげず、
「待ってる間、ハムでも食べる?」
この店は、量が多くて、常に宴会調。オーナーは間違っていない。この店は、軽食屋なんかではないのだ。ヴィンテージな雰囲気の中で飛び交う、ばか笑いと大声、口ひげに冷えたブルイリーワイン。笑って騒いで、料理なんてそっちのけ。その料理、たしかに悪くはないが、あえて話に出すほどでもない。減速して、当惑して、何かが足りないけれど、その分をカロリーでまかなってしまおうという作戦。牛肉の尾っぽ、ポトフ、キャベツの肉詰め、子牛の背肉。一皿一皿のボリュームはすごくて、それはデザートの、ムース・オー・ショコラも同様だった。おかわりまでできてしまう。これは、チョコレートの粒がはいっていて、なかなかいけたが、この一品こそ、この店の、ちょっと押し付けがましい気前の良さを、よく表現していた。
値段は、意外とすぐに一人約50ユーロまであがる。安いとはいえない。極めつけは、クレジットカードが使えないことだった。
L'Auberge Le Quincy
28, avenue Ledru-Rollin
75012 Paris
Tel : 01 46 28 46 76
土日月休
Photos/F.Simon
「うちは軽食屋じゃなくて、レストランだよ。うちの売り上げはどうしてくれるんだい。」
「ぼくは常連の隣人じゃないか」
「関係ないね。うちにきたら、食べなきゃいけない」
苦笑いのワンシーン。完全にオーナーの標的になったその男は、ぼさぼさの頭でいかにも退職者の顔をしていた。幸運にも、彼はオーナーの傲慢さには動じず、大量にあるその鼻毛さえ、びくとも動かさなかった。このケチなはったり屋の攻撃を、人ごとのように応じていた。
僕の方は、と言ったら、うってつけの生きた「楯」と一緒だった。髪にメッシュが入り、太らないかどうかを気にしだした、思春期前の女の子。オーナーは、ちょっといやそうな様子を見せたが、それでもめげず、
「待ってる間、ハムでも食べる?」
この店は、量が多くて、常に宴会調。オーナーは間違っていない。この店は、軽食屋なんかではないのだ。ヴィンテージな雰囲気の中で飛び交う、ばか笑いと大声、口ひげに冷えたブルイリーワイン。笑って騒いで、料理なんてそっちのけ。その料理、たしかに悪くはないが、あえて話に出すほどでもない。減速して、当惑して、何かが足りないけれど、その分をカロリーでまかなってしまおうという作戦。牛肉の尾っぽ、ポトフ、キャベツの肉詰め、子牛の背肉。一皿一皿のボリュームはすごくて、それはデザートの、ムース・オー・ショコラも同様だった。おかわりまでできてしまう。これは、チョコレートの粒がはいっていて、なかなかいけたが、この一品こそ、この店の、ちょっと押し付けがましい気前の良さを、よく表現していた。
値段は、意外とすぐに一人約50ユーロまであがる。安いとはいえない。極めつけは、クレジットカードが使えないことだった。
L'Auberge Le Quincy
28, avenue Ledru-Rollin
75012 Paris
Tel : 01 46 28 46 76
土日月休
Photos/F.Simon
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