トロワグロの息子であったり、はとこであったりすることは、決して嬉しい贈り物ではない。大抵の場合、血がつながっていることを証明するために、一生、漂流を逆上して生きていかなければならない。
ミッシェル・トロワグロは、この家族図に苦労しただろう。でもそのおかげで、一気に頂点まで上り詰めたこともできた。
父親のピエールが、日本と関係が深かったことで、日本との交友関係までついてきた。子供の頃は、おやじがサムライの格好で電車から降りてきたのを見て、驚異にひっくり返ったことだろう。めずらしい食材やハーブ、スパイスをたくさんつめたスーツケースをかついで、日本から帰国していた様子が、目に浮かぶ。
今日、彼の料理は、その頃の思い出がたくさん詰まっている。
マスタード風味のマトウ鯛のぶつ切りや、盛りつけが印象的なカエルのもも肉など、彼のパリのレストランでは、そんな混血料理が、しっかり成功を収めている。
この類いのグラフィックなエキゾティズムは、カエルのもも肉にクミンがききすぎているように、料理の骨格を際立たせる役目を担っている。しかし、その一方で、世界で一番うまい料理の一つ、モロッコ料理のパスティーヤが、ここでは全く別の料理に変身しているように、オリジナル料理の面影が、ほとんど残されない。
コーヒーとウィスキーを使った創作料理のように、すべての料理が、思いがけない素材の組み合わせによって、再現されている。それ自体はかなり成功していたが、レモン味のクリームを出されたときには、さすがに躊躇した。
不思議な感じで、興味深く、悪くない。
こういう感想の仕方は、料理がうまいかうまくないか、判断できかねるときに使われる言い方ともいえる。
全体的に、彼が作る料理は、父親の影がちらつく息子がつくる(時にはそれさえ乗り越えてしまっているが)打ち解けた遊び心のきいた料理だ。それには、成熟して、一風変わっていて、2つの大陸を感じさせる料理を提供したい思いが込められている。
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