今夜は、野菜がテーマ。
ピエール・ガニェール、ピエール・ガニェール。
正直、僕が一番大好きなシェフだ。
いつもどこかに疑惑と、恐怖感と、そして精神分裂病を感じる料理。
突然崩れたかと思うと、脳みそが顔を出す感じ。ルールのない彼の料理は、抽象できない。狂乱状態で言葉を発し、繰り返し同じ言葉を発しつづけるピエール・ガニェールは、いつも事故に奇遇したばかりかと思わせる雰囲気を持つ。
彼が作る野菜の前菜。
もっともシンプルな一皿ともいえる、モリーユ茸と小玉ねぎのトゥルトーパイは、見事な仕上がりだった。
目の前で切り分けてくれ、その横には、小さなグラスと、うまくできたロケットサラダのシャンティークリームがのせられた皿が待ち構えている。この一連のパフォーマンスには、驚かされ、又一つ新しい思想を生むけれど、常に食欲がわいてくるわけではない。
彼の料理のファラオニックな構造を知っている限り、あえてアミューズ・ブッシュは頼まないことにした。
そのわけはこうだ。
僕にとって、レストランでの食欲は神聖なるもの。
僕は、空腹でレストランに到着する。
僕の口(ブッシュ)をもてあそんで(アミューズ)ほしくはないし、待たされたくもない。僕は、自分が注文した料理に、腹が減っているのだ。シェフが僕のためを思ってこしらえたものに、腹が減っているわけではない。
レストランに到着してから、僕自身が注文した料理が出されるまで、結局75分も待たされた。
それに続いて、舌平目は、この大げさなシステム構造から生みだされる。
これは、特別よかった。
その絶妙な組み合わせは、舌平目から、アボカド、セロリ、アスパラガス、ほうれん草、そしてバナナとレモンへと舌触りが変化していき、よくできたものだった。
デザートは、またまたガニェールの呪文が吹きかけられ、逃げられる恐怖感から、テーブルの上をを大きく塞いでいた。
おすすめデザートであるバニラのスフレはもちろん、デザート全体に、彼の魔術がかかっていたといえる。
そんな爆撃は、会計時まで続き、たくさんの円がしっかり表記されていた伝票が届いた。
そして帰り際、レストランの出口で、さらに一杯、「さようなら」の小さな飲み物がサービス。
タクシーのドアを開けながら、一瞬、脅威の妄想に陥った。 その座席に、ガレット、グランマニエのクリーム、ウォッカ、ウィスキー、ジン、酒、焼酎、シャンパーニュ、メスカル、アルマニャック、メイプルシロップ、カソナードが並んでいる白昼“悪”夢をみたのだ・・・。
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