パリのあるグルメ通りの情勢。
7区の美食家たちの奴隷となった、マラール通り。夜の8時半。
航空図で見ると、赤外線のカメラレンズが真っ赤に染まったに違いない。アフリオレやラミ・ジャンのオーブンが爆発しそうなくらい熱狂したわけだ。
最近オープンしたこのレストランは、ラグビーマンサイズの豚の背肉や、夏休みの合宿生全員を満腹にするくらいのアミューズ・ブッシュで、穏和だが、カロリックな狂気が溢れている。店を出る時の、疲れきって千鳥足になった自分を想像さえできる。それは常連でなくとも行われていることだ。
そのレストランの正面、8番地にも、控えめなレストランが新たにオープンした。
ブルターニュのにおいがするブルターニュ生まれの男、アンドレ・ルレッティが舵を握る。ゴブラン地区にあるラナクレオンという、控えめだけれどしっかりしたレストランを、彼が経営していたのをご存知な方もいるだろう。
何も付け加えることはない。
パリにレストランをもったら、とくに実行しなければならないことといったら、顔を表に出すこと、アタッシェ・ド・プレスを飛び回させること、客を無理矢理連れてくること、プレスの前でフラフープをまわすこと、他人の下の名前まで覚えていること、そして誰にでもビズをすることだろう。
でもその間、誰が厨房でスープをつくるんだ?
誰が生クリームをホイップするんだ?
アンドレ・ルレティには、それが出来る。
だから、レストランには人影が疎らだった。
音声の高いアメリカ人のグループが一テーブル。そして、ワインの選択肢に困っている僕らに気を使う若いウェイターが一人だけだった。
突然、盲目な快感の中、僕のテーブルの一人があることを発言した。
「お婆を開けない?」
若い青年ウェイターは、拒否気味の態度を見せたから、このプロジェクトには何も残酷な要素はないということを説明しなければならなかった。
ただ、ローヌ地方グラムノン産のキュベ「Mémé(お婆)」という名のワインを意味していただけのことだった。
残りは、気前がよく、明瞭で、誠実でもあり、最後までやり遂げた感じの料理が完璧だった。
アンコウ、豚の頭のパンポル産そら豆添え、タラのフィレとりんどう風味のブイヨン、ねずとレモンでマリネしたサーディンのフィレ、等々。
ご存知のように、一晩に二組の客じゃ、パリでは惨めなレストランのジャンルに入る。月末にようやく借金を返せるくらいだ。
だから、この誠実なレストランに足を運ぼうという訳だ。
厨房で自分が愛する職業を貫く人間に、仕事の意味を与えよう。今晩、いきなり満席に予約を入れて、驚かせてやろうじゃないか。
L’Agassin
8, rue Malar - 75007 Paris
T. 01 47 05 94 27
定休日:日・月
昼のコースが23ユーロ、アラカルトは34ユーロ
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