「ゲストを楽しませるためには、まずは自分自身が楽しむことから se faire plaisir pour faire plaisir」
これは、アン=ソフィー・ピックが、ヴァランスに新しく開設した料理学校 SCOOK に掲げたスローガンだ。
頭の良く切れるこの3つ星シェフは、直接教壇には立たない。代わって、彼女のセカンドシェフ、オード・ランブール Aude Rambour が、シェフやこの偉大なホテル・レストランのエスプリを伝授する。
よく磨かれた鋼鉄で烙印された輝かしいピックの看板が、ビロードの正面玄関にくっきり浮かんで見える。
記念碑的なアドレスの一つだ。
ピック家は伝説的な家系である。まるで、永遠なるフランスの伝統の象徴。
小柄で若々しいアン=ソフィー・ピックは、この伝統的な家族の偉業に似つかわしいだけでなく、警戒心の強い集中力さえもちあわせる。他の成功者は、知名度が上がると、なされるがままに身を任せる起き上がり小法師に化けるというのに。
控えめで、永遠に続く強い緊張感。
まるで、運命がこのメゾンを支配して、レストランの壁の間で煮えくり返っているようだ。
アン=ソフィー・ピックの魂は、独特の個性をもっている。
まず始めに、彼女は内部に秘めた料理以外の才能を発揮させる。その後、人生が彼女をまた元の場所に連れ戻した。ヴァランスの岸でひいては押し寄せる大波のように。
22歳で、彼女は見習い料理人として厨房に戻る。父親とまた一緒に働ける喜びを噛み締めていたに違いない。
そして、ピック家の将来についての話し合いは、彼女の夫、ダヴィッド・シナピアン David Sinapian 同席のもと、ピュミロールのトラマ Trama で行われた。これが、大家族での最後の食事となった。父親はその後間もなく、この世を去る。
そのショックが彼女の背中を押したに違いない。彼女は決して傲慢な態度を見せず、謙虚に、逆流をさかのぼる鮭の根強さをもって父親の跡を引き継いだ。
だから今日、彼女がつくる料理には、人生、家族、そして伝説のすべての要素が詰まっている。皿の上の料理を良く観察してみたらお分かりだろう。その粘り強さや対偶主題を、深く感じざるを得ない。ロティーにしたホタテ貝と年代物のラム酒の一品、アスパラガスとチョコレートの一品等がいい例だ。対位法や中心になるものを強調するための理屈を、いつも追いかけなければならない感覚に陥らせる。
アン=ソフィー・ピックの料理は、開かれた書籍にどこか似たところがある。それは、努力の本、情熱の本、捜索の本の総体ともいえる。
心にじんときて、味わいの深い料理。
www.scook.fr
又は 04 75 44 92 38.
www.pic-valence.com
Photo DR