もうたくさんだ!
それにしても、おかしな話だ。20年以上、フィガロスコープの浴槽に水を溜め続けているというのに、いつになっても満杯にならない。だから、配管工を呼んで原因を調べてもらった。
浴槽の下へ頭を突っ込んだ後、鼻には埃、肩には小さなパンツ、口には馬鹿でかいののしり文句を抱えて、再度現れた配管工はこう言った。
「下から漏れてますよ」
だから、僕らはみんなで腰をかがめて奥を覗いてみた。
たしかに、水漏れしている!
何が原因かって?僕らの親愛なる同業者が、弊紙創刊以来、下からすこしづつ水を吸い上げていたらしい。まあそれは、特に腹をたてるほどのことではなく、逆に言って、僕らはそれを誇りに思ってもいい。レストランにも同じ現象が見られ、どこへ行っても、キングクラブやいちょう蟹のほぐし身が皿にのって出てくる。たしかにまずくはないけれど。
そんな中でも一番笑えるのが、僕らが冒したうっかりミスを、僕らの心の広い幹部宛てに、いちいち手紙を書いて知らせる連中がいるってことだ。真剣な話!だからある日、僕らにもできるんじゃないかって、話し合った。
ののしり文句をいったり、コピーのコピーをしたり、鼻に埃をつけて頭を出すのではなく、ガイドブックを作り上げること。少なくとも、まずは第一冊目から。
ミーティングルームに集まって、白熱灯をつけた結果、仕上がったガイドブック。何も複雑に考える必要はなかった。
信念と仕事と22年に渡るレストランでの生活。8000回以上も、
「予約を頂きましたか?」「いかがでしたか?」
また、「食欲促進にどうぞ」
というセリフを耳にしてきた。眠れない夜、強烈な不消化、黄色くなった目(またはピンク、グレー、黒、時にはポーチされた目)、目の下のクマ、232回も耳にしたアルカ・セルザーのチューブ、457回もの強制義務、ミネラルウォーター製のプール、コート・ドュ・ローヌが流れる小川。これらが全部、ガイドブックの枠組みとなったものだ。
ご存知かもしれないが、僕らは影で仕事を進め、勘定もきちんと支払う。ほとんど友人をもたず(みんな外部の人間で、友人は一つまみだけで十分だからね)、誰からも借りがない。電話で会話するように、とんとん拍子で文章を綴る。もちろん、うまくなかったら、それも載せる。
なんで複雑に考える必要があろう。好きな放題に星をつけて、みんなのいいことばっかり口にする。パリは、そんなものではない。悪口、冗談、不合理、降参、そしていきいきとした雰囲気。
このガイドブック第一弾では、洗面台の下に、グラスをおいて水漏れを防いだ。もう配管工の世話にならなくてすむ。
インターネットで注文可能。
Photo/F.Simon
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