僕らのどんちゃん騒ぎを前に、野菜たちは時折、墓の中でも落ち着いて眠ってはいられないに違いない。ごぼう製の凱旋門、根菜パネで作ったエッフェル塔、ビーツ製のフランス共和国。
20年前なら、道ですれ違っても気づかなかったことだろう。そんな野菜たちこそが、ガストロノミーの世界では、虐待された子供的存在である。ピューレにされたり、千切りにされたり、すりおろされたり。土の中から顔を出した途端に、栄冠を失う。ギロチンやチェーンソーで無惨に切り落とされ、真っ正面からこっぴどくやられるのだ。
それでも徐々に、野菜も彼らなりの果実を実らせてきていたらしい。はにかみながらもね。
メイン料理に野菜を使い始めたのは、アラン・デュカスが先駆けだったに違いない。それは、モンテカルロの町中を陶酔させたかと思うと、即時、そこら中でまねされて、ココット鍋やその他の畑野菜がまざった料理が、頻繁に見られるようになった。そんな行事の展開を察知したアラン・パッサールも、それに食いついた。しかし彼の場合は、それだけでは終わらなかった。あまりの疑心感から、ランジス市場のやり方を非難し、肉料理をレストランのメニューから削除した。幸い、彼が勝利して終わったからいいものの、2001年には、その件で名誉毀損の裁判沙汰にまでなった。
今日、パッサールは、もっともっと先の道を歩んでいる。パリ近郊に独自の畑を所有し、自分の野菜を栽培して、そのテーマをいろんな場面で研究している。この分野を追求するシェフグループの中でも、彼のレストランはトップに位置するに違いない。
根セロリのカルパッチョの一皿は、ミニマリズムの素晴らしい逸品だった。その取り扱いは滑らかで、聖体のパンのように完璧である。
塩の殻で包まれたビーツの一皿には、完全に魅了された。この店の大ヒット料理は、2回に分けてサービスされた。まずは、塩製の一品。僕らの目の前で塩の殻がたたき割られた時には、畑生まれの大胆さを前に、周囲の客席からの羨望と仰天のまなざしを感じた。料理はじんときて、うまい。しかし立ち上がって、聖歌を奏でてしまうほどではなかった。
ローブ・デ・シャン「アルルカン」Robe des champs "Arlequin" の一皿は、畑の狂想曲、季節野菜の行列とでもいえる。全体から素晴らしい土の香りが立ちこめいたが、この手の料理なら、ステラマリスのタテル・ヨシノのほうがいい。タテルは、かれこれ10年以上もこれにそっくりの料理を作り続けている。67ユーロ。
客層/すごく裕福で、ナルシスト。話かけやすい、とでも言えようか。
サービス/大声で話しているかと思うと無気力な面もある不均衡さ。ゲイロード・ロバーツ Gaylord Robert の抜け目がなくて、すばらしいワインサービス。
うまい?/美味
高い?/これは、恐ろしいほど高い!値段のはらないワインを頼んだら、最初にすすめられたものでも155ユーロ!この日の合計は、高くないらしいワインと、前菜を3皿で467ユーロ。これ以下に収めることは困難だろう。
行くべき?/この値段なら、行く価値なし。どうしてもって言うのなら、僕抜きでどうぞ。
Argège - Alain Passard
84, rue de Varenne - 75007 Paris
Tel : 01 47 05 09 06
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Photos/F.Simon
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