パリ、ヴァノー通りに日が沈み、電灯が道に影を作る。場所を見つけた車が、ウィンカーを点滅させ、駐車の列を作り始める。そんな中、まだ明かりが灯り続ける店がある。そのぎらぎらとした照明のなかで、一人の男が食事を用意する。今は一人ぼっちの彼も、もうすぐ助っ人が必要になるだろう。しかしオープンしたばかりで、店内も決して広くはない。隣人と肘が使えるような間隔で配置されたテーブル席が20、厨房はオープンキッチンだ。一人でレストランへ入って、「お連れ様は?」と聞かれ、「一人です」と答えたときに味わう空白のように、アキもこの店でたった一人ですべてをこなす。この、アキヒロ・ヒロコシは、その経歴を耳にしただけで、業界の人なら寒気がするに違いない。パリの3つ星レストラン「アンブロワジー」のベルナール・パコーの下で20年働き続けた。たしかに、彼には貫禄がある。片手で魚を盛りつけ、もう片方の手では、お勘定を計算する。
そんな彼をみているうちに、立ち上がって料理運びを手伝ってあげたくなるし、隣の席の客へワインサービスをしながら「いかがですか」と声をかけたくもなる。そんな状況の中、耳を押さえて陳腐な歌を怒鳴り歌う子供のように、アキは、自分だけを相手に戦っている。彼の料理は、限りなくシンプルながらも、ミネラル加減がたっぷり。淡い黄金色のオリーブオイルがかかった野菜、ジャガイモが2つ添えられた、ラングルティンが2つ、理想的なマトウ鯛と豆のピューレ、しつけのいいデザート。感動的で、うまく、そして重くない。
この手の店は、本当に少ない。だからこそ応援してやるべきだ。
La table d’Aki
49, rue Vaneau - 75007 Paris
Tel : 01 45 44 43 48
日・月休み
夜コース 38ユーロか45ユーロ
昼 18ユーロ前後
Photos/F.Simon