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手頃な店を探しに出かけて、ノスタルジーの世界に陥り、胸を痛めてしまうのは目に見えていた。
でももちろん、心地いい思いもたくさん味わったわけだが・・・。
この界隈は、うまくて本物の料理が味わえるレストランが軒を連ねる。ラ・スリジー、スプリングetc…
シェフが厨房にいて、オーナー(もしくはウェイトレス)がホールに立つ。
そして客がその間を占める、という構成。
サンドウィッチみたいな料理は完璧だった。
嬉しげなピンク色をしたハムは、今にも僕らの口の中に飛び込んできたげだった。
厨房のシェフを目にしながら食事するのは、キュイジーヌを2次元の世界で見つめているようなこと。
つまり直球。
ヴォヴァン地区にある、レストラン「ル・タンブル」では、僕らが感動せずにはいられないような振る舞いで、シェフがそこにいる。手首を器用に使ってフライパンをふるい、仕上げにハーブや塩や胡椒をそっとのせ、生まれたての赤ちゃんを扱うように魚を皿の上に滑らせる。
単純にも、食事の大半の時間を、厨房を観察しながらすごしてしまった。
ひょっとしたら、シェフを手助けして、洗い物をはじめる奴も現れるかもしれない。
センチメンタルな料理を求めるなら、試してみるべきだ。
鍋やフライパンの音、真っ白なテーブルクロスやナプキンが、心を落ち着かせてくれるだろう。価格は、質と心遣いを考慮したら、安すぎるほうかも。
Le Timbre
3, rue Sainte-Beuve – 75006 Paris
T. 01 45 49 10 40
フーディーという言葉をご存知だろうか。
食材とレストランに、目がない連中のことを指す。彼らは、チョコレートのエクレアや揚げ菓子のためなら、フランス縦断だって、ひょいひょいとこなしてしまう。
しかしよく考えてみると、昼食にブルターニュ地方のクロワジックで生ガキの一皿を平らげた後、夜にリールでフライドポテトつきのムール貝を頂くことは、決して難しいことではない。
TGVに乗ればいいだけの話。
外国人は割と身軽な傾向があって、特に日本人なんか、陶器のマグカップを買い求めるためには、リモージュにまで足を運ぶ。カヌレが食べたいならサンテミリオン、クグロフならアルザスといった具合だ。何十キロもの道のりをもろともせずに、情熱だけが突き進む、というわけ。
フランスが、まるで小さな国であるかのようにさえ思わせてしまう。
しかし、問題はここにある。
「近所でも、それなりにうまいものが食えるのに、フランスを縦断する必要があるものか?」
「ある」と答えたあなたは、うまいもの好きだろう。そうでなければ、一口目を味わう瞬間を思い出に刻みたいから、わざわざ赴くのかもしれない。
そんなわけで今回は、足を運ぶのに時間がかかっても、納得できる衝撃的な地方のいい店をご紹介。
南仏カルパントラ Carpentras
コンフズリーの「ボノ Bono 」は、火を入れた果物菓子がうまい。
根強い人気の伝統的な地方菓子が有名なこの店は、情熱をもって、果物のコンフィの砂糖包み(100g で 5 ユーロ)もしくは砂糖なし(100g で 4,5 ユーロ)、レモンや黄金のアプリコットのコンフィチュール、かりん等、果物のゼリー(100g で 3 ユーロ)を作り続けている。
Bono
280, allée Jean-Jaurès – 84200 Carpentras
T. 04 90 63 04 99
パティスリー「ジョヴォー Jouvaud」は、メレンゲのお菓子が有名。
ローストしたノワゼットを中に加えた大きなメレンゲのお菓子、ロカイユは評判高い。カフェ、チョコレート、バニラ味。また、チョコレート愛好家クラブ認証の板チョコや、プルーン、メロン、イチジク等、多種そろった果物のコンフィ(1kg で 56 ユーロ)もかなりいける。
Jouvaud
41, rue de l’Évêché– 84200 Carpentras
T. 04 90 63 15 38
リヨン Lyon
ブイエ Bouillet は、マカロン界の王子だ。
日曜のクロワ・ルース通りには、マカリヨン macalyon を求める客が列をなす。この塩味キャラメルのマカロンは、1 箱 4 個入りが 6 ユーロ、1 箱 18 個入りが 26,20 ユーロ。また、18種ある定番のマカロンや、どでかいマカロン(46,80 ユーロ)、チョコレート、キャラメル、華の塩等の小さな粒が口の中ではじけ散る、ダイナマイトな棒飴(17 ユーロ)もお見逃しなく。
Sébastien Bouillet
15, place de la Croix-Rousse - 69004 Lyon
14, rue des Archers – 69002 Lyon
T. 04 78 28 90 89
ミュルハウス Mulhouse
ミシェル・バンワース Michel Bannwarth は、多種多様の冷製菓子で名高い。
とくに、ピスタチオとフランボワーズ、フランボワーズの果汁のマカロンはすごい(4人分で 20 ユーロ)。サントノレ(1人分 5 ユーロ)や基本のクグロフ(6 ユーロ、9 ユーロ、12 ユーロ)、アイスクリームも、彼が作るお菓子の代表格だ。
Bannwarth
50, avenue d’Altkirch – 68100 Mulhouse
T. 03 89 44 27 32
アルボワ Arbois
「イルサンジェ Hiesinger」は、チョコレートを賛美し続ける。
丹誠込めて作られたガナッシュのチョコレートや、チョコレートに対する敬意がはらわれながらもクリエイティブ精神が溢れるケーキが並んだウィンドーは、本当に素晴らしい。苦味のあるガナッシュとアーモンド、甘みをとったムース・オ・ショコラ、ノワゼットとアルボワ産マール酒漬けのブドウは必見。
フランス最高職人賞(MOF)受賞者。
Hirsinger
Place de la Liberté – 39600 Arbois
T. 03 84 66 06 97
マンステール Munster
ジルグは「旅のお菓子」を発明し続けている。
1936 年創業、ヴァージニーとティエリー・ジルグ Virginie & Thierry Gilg が舵を切るこのメゾンは、小さなチョコレート「マンステール」でその名を上げた。ゲベルツトラミネールのマール酒に漬けられたアーモンドは1箱が 22,10 ユーロ。オレンジとアルザスの蜂蜜でつくられたふわふわのパン・デピス(250 gで 8,90 ユーロ)、チョコレートケーキ(250 g カットで 8,90 ユーロ)、 そして、クルミとアーモンドがはいった、名物菓子「旅のお菓子、マルケールのデリス」(小サイズ 11,50 ユーロ)もお忘れなく。
Pâtisserie Gilg
11, Grande-Rue – 68140 Munster
T. 03 89 77 37 56
ボウル Baule
クリストフ・ルーセル Christophe Roussel は、ルリジューズ Religieuses(宗教の意。シューを重ねて飴をかけたお菓子)を讃え続ける。
彼のチョコレート、ボウル地方のおいしい口づけ(12 ユーロ)は、大成功を収めているが、「カトリック的ではないルリジューズ」(いろんな味、多種色、3つの形のシュー生地:3,80 ユーロ)やレストランで頂くデザート風の大きなマカロンの寄せ集め、等々も見逃せない。
Christophe Roussel
6, allée des Camélias - 44500 La Baule Escoublac
T. 02 40 60 65 04
サン・ジョン・デ・リュズ Saint-Jean-de Luz
コンフィズリーの「パリエス Pariès」は、カヌガ Kanougas を作り続けている。
この地方では知らない者がいない、名物店となったこのお菓子屋では、僕らを発狂させて有名なカヌガ(キャラメルとチョコレートの間のお菓子)が、ホイップクリームで仕上げらている。(コーヒー味かバニラ味、100 g で 30 ユーロ) また、小さなマカロン(10 〜 12 個で 9,8 ユーロ)や風味高いガトー・バスクもお忘れなく。
Pariès
9, rue Gambetta - 64500 Saint-Jean-de Luz
T. 05 59 26 01 46
ニーデルモルシュヴィール Niedermorschwihr
「メゾン・フェルベール Maison Ferber」は、コンフィチュールを表舞台に掻き立てた。
ここ、コンフィチュールのメッカでは、250種ものコンフィチュールが、クリスティーヌ・フェルベールによって創作されている。バエルウェルカ Baerwerka という名の素晴らしいチョコレートも隅にはおけない。
田舎の雰囲気を壊さないエピスリー・パティスリーは、内装も落ち着いた感じ。
Maison Ferber
18, rue des Trois-Épis - 68230 Niedermorschwihr
T. 03 89 27 05 69
リール Lille
「ミールト Meert」 は、ゴーフルを支配し続けている。
ヨーロッパで一番古いパティスリーの一件であるこの店は、歴史的モニュメントでもあり、マダガスカル産のバニラで作られたゴーフルが有名だ(一枚 2,20 ユーロ。)ホームメイドのキャラメル味も見逃せない。
Meert
27, rue Esquermoise - 59000 Lille
T. 03 20 57 07 44
Le Guide gourmand (Éditions Glénat)
Élisabeth de Meurville
シャンパーニュ・オ・モンドール Champagne-au-Mont-d’Or
「セーヴ Sève」は、プラリネのタルトを昇華させている。
このリヨンの有名どころは、プラリネのタルトを軸にどんどん成長し続ける。マダガスカル産のバニラ、プロバンス地方のアーモンドを使ってできたこのタルトは、 15 ユーロもしくは 26 ユーロ(6人分)。モン・ドールのピエールは 100g で 20 ユーロ。そして2000 年に生まれた、おつまみ用マカロンは、セップ茸と鴨のフォアグラ、イカ墨と黒オリーブのピュレ等が選べる。(各1,5 ユーロ)
Sève
62, avenue de Lanessan - 69410 Champagne-au-Mont-d’Or
T. 04 78 35 04 21
3月に新オープン Halles de Lyon - 29, quai Saint-Antoine
そしてパリ
もう一回、パリにある有名どころの甘い店を、羅列して称賛し直すのは、時間の無駄といえるだろう。
アンジェリーナ、ラデュレ、フォション、ルノートル、ダロワイヨ、カレット、ピエール・エルメ、ジャン=ポール・エヴァン、そして胡麻のアントルメが有名なアオキ。
皆さんが、もうとっくにご存知な店ばかり。
だから今回はちょっと意向を変え、最近この首都にオープンしたてのパティスリーをご紹介しよう。この職人たちは、大抵、パリの大手ホテルで修行を積んでから、自分の店を開いたケースが多い。
「デガトー・エ・デゥパン Des Gâteaux et du Pain」
プラザ・アテネのシェフパティシエ、クリストフ・ミシャラックのお気に入りだったクレール・ダモン Claire Damon の店が、ピエール・エルメも店を構えるパルトゥール通りにオープンした。偶然、ヤン・プノール Yann Pennors がこの両店をデザインしているが、土地柄もあって、この2店はライバル店となることだろう。まずは、サントノレのカフェ味、カシスと栗のモンブラン、そしてパンを1キロから始めてみよう。かなり危険。
Des Gâteaux et du Pain
63, boulevard Pasteur – 75015 Paris
T. 01 45 38 94 16
もう一人の期待の若い女性シェフは、ローランス・エデゥレー Laurence Edeler。同じくパティシエの父、ラルフ・エデゥレーと共に、17区にあるエキュルイユ通りで、ブティックをオープンさせた。
おすすめは、マロングラッセとウィスキーのルリジューズ。
Pâtisserie L’Ecureuil
96, rue de Lévis – 75017 Paris
T. 01 42 27 28 27
4区のマレ地区では、ピエール・ガニェールのパティシエだった、ナタリー・ロベール Nathalie Robert とディディエ・マルトライ Didier Mathray が、小さなグラスに装飾したデザートで、常連客をうならせている。マンゴーのエクレアも必見。
Pain de Sucre
14, rue de Rambuteau – 75004 Paris
T. 01 45 74 68 92
フィリップ・コンティチーニ Philippe Conticini のブティックオープンが、ついに1年後にせまった。そのブティック開店前に、どんなものがそこで味わえるのか、4区にできたこのシェフのミクロなブティック、エクセプション・グルマンドゥで体験できる。柔らかいヌガーや極悪なクィニーアマン、やめつきになるクッキーがおすすめ。オープンしたて。
Exceptions Gourmandes
4, place du Marché Sainte-Catherine - 75004 Paris
T. 01 42 77 16 50
安心して聞いてほしい。
半生のフライドポテトに腹を立てた連中が、しびれを切らして起こしたガストロノミーの新しい動きを指しているのではない。
それは、数年前から僕らが苦しみ続けているジレンマのことを指している。
隔離された牢獄からでてきたばかりの方や、かなりの長旅から帰ってきた方の為に、まずは簡単な前置きから。
ソースたっぷりの料理が流行った、長くて怠惰な十数年を経て、上手く狂気したヌーベル・キュイジーヌ(1973年〜1983年)の時代が訪れた。
そして、指先に鞭を打たれたかのようにして突然現れたのが、偉大な技巧を使った最高級のキュイジーヌ(ロブション、デュカス等の1980年〜2000年)。
この時代は、皿の上が食欲に満ちた玉手箱だった。ナプキンを広げて首にくくり付け、料理がくるのを待ちわびた時代だった。
完璧だったが、実は少しずつうんざりもしかけていた時代。
そして数年以来 、もうご存知だろうが 、キュイジーヌは見事な波に乗って、グルメなビストロやフリースタイルで仕事をする動きへと、扉を開いた。
この香り高いアナーキズムは、省略形を操り、はちまきを巻いた蟻の行列の中を進む者にとっては、ちょっとだけうざい存在にもなった。
これが、シェフを崇めてしまう「おぉ」といえるキュイジーヌ。
しかし結局のところ、それを口にする人間にとっては意味不明のキュイジーヌにすぎない。儀式は延々と続くが、常に腹ぺこ状態というわけ。
このナルシストな動きの中で、すごい才能が花咲く場合もあるけれど、客としては直接的に関係する問題ではない。
サーカスのテント上の状況のように、それは皿のはるか上での出来事。言ってしまえば、僕らは、シェフの存在が絶対的に必要なわけではないのだ。
その上、シェフは客席に対して、すこしパラサイトになりがちだ。
常に気が利くわけではない上、料理が遅れて運ばれてきたり、言葉やカトラリーに不器用だったり。これが、作者がそこにいる料理界で、どんどん見られるようになってきた現状だろう。
解放された精神こそ、間違いなく、キュイジーヌの中で最も手強い食材といえる。
パリにあるレストラン、ラ・ビガラッド(La Bigarrade, 106, rue Nollet – 75017 Paris T. 01 42 26 01 02)がいい例だった。45ユーロのコースは、輝かしい。
それは、でかい皿の底にのせられた小さなサイコロ状の料理から始まる。
凍結乾燥された、シェフのへその緒か?
いや違う。
なんだこれは?
その物体は、口に入れるとスポーツカーみたいに速攻消えていった。
集中力が必要だった。
2度は繰り返せないから。
次に、トリュフが帽子みたいにのせられた、帆立貝が2つ。
これはうまかった。
表現法はかなり簡潔だけれど、あっさりした魚にサラダとライムと味噌がうまく合っていた。
料理には緊張しか感じられなかったが、次の料理は、ずいぶんたってから運ばれてきた。
これが、今軽蔑のただ中にある物体が添えられたリゾット。
その食材こそが、ビーツ。
このフツーで基本的な野菜を嫌っているわけではない。
ただ、いつもいつも皿の上に登場するものだから、出来れば避けて通りたい食材になってしまった。
その味のする角柱は、はっきりいってまずかった。食感も、退屈で短すぎた。
クレモンティーヌとレモン、フランボワーズのピューレがのった、デザートのリオレ(ご飯のカスタードクリーム煮込み)もいまいちで、食事の最後には、妙な不満感が胸に残った。
それが、食べ過ぎたからなのか、食べ足りなかったからなのか、期待しすぎたからなのか、僕の陣地ではない領域に足を踏み入れてしまったからなのか、はたまた、ポップな辛酸がききすぎて、自立した輝かしいガストロノミーのせいだったのか、わからない。
数世紀先も、レストランは、「ミャム」と言いたい場所であり続けなければならない。
尊敬の念は、服従しやすい人民を好む。
ただ、僕らはそう簡単には服従しないってこと。ただそれだけ。
レストラン業界は意地悪だ。
フランス人グランシェフの中でも屈指の、ジャック・マキシマン(60)が彼のレストランを閉店するにあたり、その衝撃的なニュースに反応する者は少なかった。
もっとも、この輝かしい才能をもつ男が、メディアのカメラやマイクを押しのけて、パラドックスな世界へ雷を落とす姿は想像できた。
しかし、フランス人シェフの中で、彼こそがあらゆる面において一番盗まれっぱなしのシェフだろう。
たとえ、それがレストラン経営の不手際が原因であるとしても、今日彼には、わらくずしか残っていない。
彼は、1970年代には、ムージャンのロジェ・ベルジェのもとで修行を積み、ラ・ボンヌ・オーベルジュのジョー・ロスタンを経て、ネグレスコでは、成功の蜜を味わった。
このナイーブな北の男は、ニース地方に惚れ込み、その巧みな技で、地域に合ったサービスを提供し、客の快感に貢献してきた。2人として存在しないこのクリエイターは、ズッキーニの花のファルシみたいに、シンプルさを忘れていないのに、ひどく鞭でぶたれたような料理をつくり、観衆を圧倒してきたのだ。
その一方、このばくち打ちは、「チュルボー・ポシェ(ひらめのポシェ)より、チュルボー(ターボ)がついたポルシェのほうがいい」、「いいあんこうのカマンベールソースより、うまい鶏のロティーのほうがいい」、「厨房には、料理人が2タイプいる。動くタイプとそれに後から付いてくるタイプだ」等、 周囲をあっと喜ばせる、辛口な口調が有名だった。
今日、ジャック・マキシマンは、コンサルタントシェフとして、アラン・デュカスグループ、そしてホテルチェーンのアコーグループと、契約を交わした。モンテカルロのノボテルとエッフェル塔のノボテルを始め、もうすぐ、彼のレシピをもとに作った料理があちらこちらで頂けるはずだ。その他のレストランでは、基本的な料理メニューの改新を担当予定。
マキシマンの魂は、まだまだくたばるには早すぎる。
なぜなら、すでに銀河ほどの弟子たちが、今もマキシマン製のソースを作り続けているからだ。
スペクタクル付きのレストラン。
そのジャンルのレストランは、今では珍しいものになってしまった。
言ってしまえば、どのレストランも、シェフのエゴに支配され、自分自身が「スペクタクル」になりたい野望のシェフであふれてしまったのだ。
要するに、4—5件のめざましいレストランを別にすれば、このジャンルに合流するレストランは数少ない。これは、スペクタクル自体の失敗やキャスティングを予知できたはずの、浅はかな時代の流れのせいもある。
そんな訳で、以前のホテル・ニッコー、今のノボテルにある、「弁慶」みたいなレストランを見つけたら、急いで足を運ぶしかない。
どうしてここ?
ここでは20年以来、頭の切れるシェフが、数年後に「発明」されるものを、念入りに仕込んでいる。
僕らの目の前に立つシェフが、新鮮な食材を機嫌良く料理してくれるのは、ウソみたいな話だけれど本当の話。
仰天して息をつまらせてもおかしくないスペクタクルだ。
でもよく考えてみたら、実は、アフリカ、アジア、南アメリカの市場でも、同じような風景をよく目にしている。
道ばたの石に腰を下ろしたら、目の前で新米コックが、スープや肉や魚をごちそうしてくれる、ご存知の通り、これこそが「ストリートフード」。
今、そのブームがどんどん押し寄せてきていて、こっちでは、冗談抜きのプロ中のプロがそれを再現するはずだ。
テッパンヤキ
日本語で「熱いプレート」。
妙なことに、ここでは満足げなシェフを前に、食事が進む。
シェフのその微笑みは、間違いなく、客の僕らが満足しているのを察知してのことだろう。
巧みに小道具を操うシェフは、無駄のない動きと、うってつけの道具、ピカピカの鉄板に、自尊心を隠せないようだ。
本物で華やかな料理が運ばれ、食後の消化もその一連に沿ったものだった。
富士山
今回は、ゲームボーイや磁器化されたおもちゃのせいで、冷淡な亀や冷たくなった鱈みたいにすれきった瞳になってしまった、2匹のひよこを連れて行った。
いまどきの子供達がそうであるように、何にも関心を示さず、蜘蛛みたいに冷静で、仮面をかぶったように無表情な彼らは、コンテンポラリーな昏睡のなかで、とぼとぼとついてきた。
しかし、もやしが鉄板上に放り込まれたとき、修正液をかぶったトカゲが泳いでいるのを目にしているかのように、彼らは真っ正面から衝撃を受けたようだった。その小さな頭の中では、電気椅子が作動して、原子爆弾が飛び交い、過激な「わぁー」が連発されていたことだろう。
熱くなったダンスピストのうえに、冷たいアイスクリームが置かれた時のショックに加え、がらくた屋で買ったにせものの花束みたいな、淡白な花束を皿の上に見た時、このチビ2人は心臓マヒを起こしそうになったに違いない。
シェフが、無害そうな液体を毅然とそそぐと、たちまち厚い雲がテーブルを襲いかかってきた。
効果は意外に莫大で、「きゃー」や「おぉぉ」、また「わぉぉぉぉ」が小さな口からほとばしり、その煙はカウンターに押し入ったかと思うと、しみをつけることなく、僕らのズボンのあたりで消えていった。
まさしく、日本でいう「もののあわれ」という精神のなかに、僕らはいた。
つまり「あっ」と言わせて、一瞬信じこませてしまう感覚。
この、実に稀な子供たちのリアクションに立ち合う機会を得て、帰り際には、やっとそれらしい見返りを被ることが出来たんだと快感した。
この感覚は、パリのリヨン駅にあるトラン・ブルーへ彼らを連れて行ったときと同じ類いのものだ。
そこで小便するのが習慣だったダリ、プライベートコンサートを開いたエディ・ミシェル、ニキータでアンヌ・パリローを吹き飛ばしそうになったリュック・ベッソン等の話を、熱く語ってはみたものの、彼らにとっては耳障りなだけだった。
「違う違う。ここはミスター・ビーンのレストラン!」と叫び返される瞬間は訪れる。
「ミスター・ビーンのバカンス」の中で、どもりがちのスターは、ジャン・ロッシュホールが運んできた、ラングスティンを平らげていた。
行くべき?
ウィウィ!
パリと富士山を一望しながら頂く、50ユーロのコースがおすすめ。かなりご立派。
Benkay
61, quai de Grenelle – 75015 Paris
T. 01 40 58 21 26
無休
投稿情報: 23:31 カテゴリー: アッシェ・ムニュ Haché Menu | 個別ページ | コメント (0)
その街でいい店が知りたかったら、レストラン評論家にその旨を尋ねることほど、率直で能率的なことはない。
今回は、ロンドンの雑誌「Restaurant」のライター、ヴィクトリア・プリオーがその応答人。彼女は、ミネラルで素敵な女性であるだけではなく、その6行のアドバイスが、レストランガイド15冊にとって変わってしまう。
最近、ロンドンで目が離せないレストランは?という問いに、彼女はこう答えてきた。
"There are so many interesting experiences in London, it is impossible to single one out! Sketch, I love eveything about it. Roka, absolutely delicious and a favulous bar the Shochu lounge downstairs. Maze is great - Jason Atherton's interpretation of Arbroath smokie is delicious. St John too is favorite, so comfortingly British.. Bentleys for fabulous fish pie. There are generally all treats though, so on a more day budget. I Love Canteen, Hawksmore, Green and Red, Salt Yard favulous for tapas. I love Zaika, amazing Indian food and Arbutus on Frith St is fabulous."
PHOTO/MAZE/ARBUTUS/DR
こんな結末を迎えるなんて!
クールシュベルで行われた「クップ・ドゥ・ランフォ(インフォメーションコンクール)」のメディア部門で、僕らのブログが、今年の最優秀ブログ賞に輝いてしまった。
相棒のクリストフ・ドレと、腰がぬけたのもつかの間、単純に大喜びしてしまった。メトロの地下道で喜びの胴上げをする前に、閲覧者の方々にお礼を言わなければならない。
はっきりいって、みなさんの応援なしには勝てなかったと思う。毎週、Simon-Says !の日本語バージョンをかわいがってくれているモリレイコにも、お礼を言おう。
僕らは、授賞式には出席できなかったけれど、その様子を出来るだけはやくレポートするつもりだ。
そんなわけで、ニュースレターに書くネタがたくさん増えた。
シャンパーニュで乾杯だ!
投稿情報: 22:35 カテゴリー: イイもの持ってるねー | 個別ページ | コメント (0)
フィガロ誌の同僚、アレクサンドラ・ミショーと一緒にかき集めた、今年話題になるはずの情報を、ここでも少しばかりご紹介。
ジスレン・アラビアン Ghislaine Arabian
5年の空白をえて、彼女が僕らの首都へ帰ってきた。
ローデン織のセーターやタータンチェックのマフラーたちが集まってきた先は、半パリジャン、半フラマンドルの血が混ざった、ネオビストロ「プティット・ソルシエール(小さな魔女)」。コース料理が20〜40ユーロという、ミニ価格が魅力的だ。ここでまた、以前大ヒットした名物料理「トラピスト修道院産のビールで作った鱈のブール・ブラン」がお目にかかれる。
すでに連日満席。
Petites Sorcières
12, rue Liancourt - 75014 Paris
T. 01.43 21 95 68.
料理に文句の付けようがなくなった状況下においては、次に続くお品書きを、インテリアデザイナーに託さざるをえなくなる。スタルクが化粧直しを担当したムーリスをはじめ、パトリック・ホアンのジュール・ベルヌ Jules Verne、ピエール=イヴ・ロションのプレ・カタラン Pré Catelan がその一例だ。ホテル・ブリストルでは、増築工事が進行中。その様子は、ブルストルのサイトにて。
支局作りに余念がないピエール・ガニェールが、最近速度を抑えてきたと思っていたら、サヴォワ地方のクールシュベルにある、ホテル、レゼレル を手がけていた。30席しかないのが特徴で、クールシュベルらしい価格のコースメニューは280ユーロ。
ディナーのみ。
Les Airelles
Le Jardin Alpin 73120 Courchevel
T. 04 79 00 38 38
一方、世界最優秀ソムリエコンクール勝者のエンリコ・ベルナルド Enrico Bernardo が、パリのジョルジュサンクを去った後、カシスにヴィラ・マディをオープンさせたのは、皆さんもご存知だろう。その後、なんと彼はヴィラ・マディからも足を洗い、前レストラン、シャマレがあった場所に、イル・ヴィノをオープンさせた。標高差でも細胞分裂し続ける彼が、次にオープンさせたのは、クールシュバルのイル・ヴィノ 1850。パリと同じコンセプトの、高級ワインバー。
IL Vino
13, boulevard de la Tour Maubourg – 75007 Paris
T. 01.44.11.72.00
La Porte de Courchevel, Courchevel 1850
T. 04 79 08 29 62
どうやら、ランスのクレイエール Les Crayères が騒がしいらしい。ディディエ・エレナが、昔の厩舎を買い取り、何かを面白いことを企んでいるようだ。インテリアデザイナーが誰だかご存知だろうか。ここでもまた、ピエール=イヴ・ロション。
ピエール・エルメ
スタークリエイターの彼は、ハイレベルなパティスリーを放出し続けている。毎年発行しているカタログは、ちっちゃなチョコチップで溢れ、微笑ましいミニコレクションは、贈り物に最適だろう。しかし残念なことに、今のところこれは日本でしか発売されていない。唯一の取得方法は、サイト上の懸賞にて。
今年の暮れには、パリでは3号店となる彼のブティックが、右岸にオープンするらしい。
パティシエのフィリップ・コンチー二の場合は、ずいぶん待たされた。路面店オープンのアナウンスが流れてからはや3年がたつ。ストーン調の中に木製のカウンターがあしらわれたその小さなブティックは、1月11日にようやく、マレ地区にあるマルシェ・サント・キャトリン広場に幕を開けた。メニューは、マカロン、無限にあるヌガーのレシピ、マシュマロ、ビスケットに、タリア風のアイスクリーム、そしてチョコレートでコーティングされたぺろぺろキャンディー。
Exceptions Gourmandes Paris
4, place du Marché Sainte-Catherine – 75004 Paris
月休 12h-20h
料理もそうだろう。流行があって、追い風に恵まれた食材が存在する。2006年はビーツの一年だった。それが終わって2007年そして2008年。日本製の柑橘類、柚子の魅力に降伏する年がやってきた。すでに多くのレストランが、柚子をレシピの中に取り入れている。
そして、ザクロも隅には置けない食材となった。非酸化食材という特性をもって、いきなり表舞台に上がってきたと思ったら、すでに偏在的存在になってしまった。
コジャン Cojean のジュースバーがいい例だ。
また、僕らの食卓にかかせない食材も忘れてはならない。
ボルディエの新しいライン、わかめとスモークソルトのバターからは目が離せない。アン=ソフィー・ピック製チョコレートとシリアルのバター等、レストランのシェフも、各自のバターを開発しているようだ。
ドーバー海峡対岸のシェフ、ゴルドン・ラムゼイが、2月か3月にヴェルサイユのトリアノンパレスにある高級レストラン、トロワ・マルシュの舵を取ることに決まったらしい。このアラン・デゥカス、アイルランド版にとって、最高の株式公開買い付けとなった。
大胆なことに、毎日厨房に出ないくせに、「トロワマルシュ」から、その名も「ザ・ゴルドン・ラムゼイ・ヴェルサイユ」へと変更してしまった。
接客の印象は「デリケート」。イギリスの人気者は(特に78年のギィ・サヴォワから)インスピレーションを受けた料理で、その表現法は幅広い。僕らが食事している間、パリに「Flute Bar フルートバー」がオープンしていた。そのシャンパーニュバーは、10年前からニューヨークにあるエルベ・ルソーの2店舗、「the Flute Gramercy」と「the Flute Midtown」をモデルにしたものだ。コンセプトは、シックなパブで、ビールのパントではなくシャンパーニュをフルートで頂こうというもの。メニューには、100種類ものシャンパーニュが名を連ねる。クリュッグのコレクションからボランジェーのR.D.まで、ピエール・ギモネ Pierre Gimonet のグラスで、あらゆるいいヴィンテージシャンパーニュが味わえる。ペトロシアンのサーモンとキャビアの贅沢なタパスがナイス。
Flute Bar
20, rue de l’Étoile – 75017 Paris
始めは9月の予定が、1月に延び、結局は3月頭に決着したようだ。
新しいフォションのレストランが、マドレーヌ広場のシックなエピスリーの2階にオープンする。ピンクとシルバーのインテリアは、クリスチャン・ビエシェール Christian Biecher のデザイン。ブーランジェリーコーナー新装のために改築された部分では、テイクアウト用お惣菜からインスピレーションを受けた温冷両方の軽食が頂ける。天気のいい日には、街の騒音から解放された場所で、20のテラス席が用意される。
Fauchon
30, Place de la Madeleine – 75001 Paris
ミシェル・トロワグロとその妻マリー・ピエールが、フランス中部イゲランドのブリオネに、シックでエコロジックなオーベルジュをオープンさせた。「ラ・コリン・デュ・コロンビエ La Colline du Colombier」と名付けられたそのプティホテルは、約50席あるレストランの客が、食事の後に魅力的な夜を楽しめるコンセプト。すでに3つ星だ。
マルク・ベラが、スキーの大事故にあってから1年が経つ。
そんな彼の3つ星レストランが、マニゴに新装オープンする日が近づいているようだ。
そこは、環境に優しい大自然の中にあるプティホテル。
また、パリにオープン予定の、新コンセプト軽食レストランの立ち上げにも携わる予定。
年々、食の祭典オムニヴォーが、その厚みを増している。
ル・アーヴルに続き、今年の会場となるのはドーヴィル。2月11日と12日に、さまざまなガストロノミーのイベントが開催される予定だ。かの有名なフェラン・アドレアを始め、ミラネーズのカルロ・カロッコ、ブルターニュからはオリヴィエ・ベラン、ドゥ・プロモディアン、ティエリー・マルクス、ミッシェル・ブラ、ジャン・フランソワ・ピエージュ、オリヴィエ・ナスティ等の顔ぶれ。
また、建築やデザイン等、幅広い分野でアトリエやディスカッションを開催予定。
パリの独占組織の中で、コスト兄弟の石蹴り遊びはさらに続いていく。ラルブッチ、シェ・ジュリアン、クレバー通りのバー・ルージュの買収。ビルボケやアリーグル近辺のレストランも又、アヴィロン出身の派閥へ仲間入りする予定だ。