分子や物理の角度から見たガストロノミーは、1988年の春に、イギリス人物理学者ニコラス・カーティ Nicholas Kurti とフランス人化学者エルベ・ティス Hervé This によって発明された。それ以来、両者とも調理時に起こる化学反応を研究し続けている。
20年経った現在、流行の先端を走る分子料理において確かなことは、テロワールが無視された食材の栄冠だ。威圧的になった食材が皿の上を支配して、ひっきりなしに姿形を変え続ける。輪切り、ムース、スプマンテ、ピューレ、ソルベ、キューブ、ビー玉、黒い鳥、鳥の先、先の鞍・・・。
それ自身、時にはポエティックだったりもするけれど、シェフがアインシュタイン面をして分子料理に身を乗り出す時、僕らはテレビの閲覧者みたいに、第三者的疎外感を感じざるをえない。
分子料理。
ラボの中であったり、(ピエール・ガニェールみたいな)ひらめきの天才が実践するんだったら、納得できる。
しかしそうでなかったら、ことはおもちゃ屋で目にする小さな化学者の玉手箱で終わってしまう。
分子料理を実行する上での唯一のリスクは、隔離されてしまうことである。
うまみを抽出するが故に、シェフ自身が美食の世界から抽出されてしまっている。
ちょっと頭の冴えた子犬に変身したそれらのシェフは、スペクタクルを披露することに夢中になってしまって、僕らが皿の上に待ち望んでいるものを忘れてしまっている。
つまり、食いしん坊たちが舌鼓をうち、食欲を促す料理。
まずは、カタラーニュのフェラン・アドリア。彼自身「分子料理シェフ」よりも、「アバンギャルドなクリエイター」と呼ばれる方がお好みらしいが、この世界でもっとも有名なシェフである。
ピエール・ガニェールは、エルベ・ティスとのコラボで、毎月新しいレシピを発明している。彼も、味や感動の優越性に重点を置いているシェフの一人だ。エルベ・ティスとの共著本「La Cuisine」で彼はこう語る。
「味わいについて語ったり、料理界の古い伝統が存在する部分、つまり伝統が僕に語ってほしくない部分に、もっと意味を与えたいんだ。」
ティエリー・マルクスについては、前回、僕が感じていることをお話しした。分子料理は、試験管や注射器を使うだけの料理ではない、と彼は語る。
PHOTOS DR/ELBULLI.COM
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