不景気。
直に影響をうけるのはレストランだ。彼らにとってこれほど痛いことはない。
だから、僕ら料理評論家がそれを分析するにあたって、基準は今までと変わってくる。
道具箱へ斧や釘抜きを片付けるだけではものたりない。一生懸命仕事しているのに危険、ということほどつじつまが合わない話はないからだ。
テーブルには、思いやりの何かが僕を覆うが、この蜂蜜は決して意地悪心からきたものではない。
ちょうどそんな機会に恵まれた。
土曜日の夜、僕は一人で宮本輝の小説を片手にアヌシーのレストランにいた。幸せな男の中でも、僕はその頂点にいただろう。
メリーゴーランドみたいに、僕の口の中で食材の風味がぐるぐるまわった。小豆、栗カボチャ、煎ったカボチャの種、若芽、キノア、ほうれん草のソテー、ハーブ風味の豆腐クリーム等々。健康でバランスがよく、わかりやすくて親切。
時々、役者配分が多すぎて、皿のふちまでにそれがはみでていることもあった。また、このビーツのスパゲティーみたいに、口に入れるのが困難なものもあった。
しかし、行儀よくて高潔なお客向けの寛容さが充満していたから、そんな細かいことは気にしないでおこう。
時々、レストラン自体がすごくなくても、風味が完璧でなくても、いい方向へ道が伸びているのを感じることができるだけで満足できることがある。
たとえ、無駄が多くても、道に迷っても、失敗しても、大切なのは、厨房から鼻歌が聞こえることだろう。
Nature & saveur
ローランス・サロモン Laurence Salomon のレストラン
ランチ 火曜〜土曜
ディナー土曜の夜、フィクスメニューのみ
Place des Cordeleirs - 74000 Annecy
T. 04 50 45 82 29
1人49ユーロ。ワインメニューは安価なものから。
Map
Photo/F.Simon