火曜の夜から水曜の朝にかかる時間に、彼は他界した。すごいシェフだったのに。
3年前、ル・フィガロ紙に掲載された彼のインタービューを拝見いただきたい。その回答は驚くべきものだった。
ガストロノミーの世界には、うまく世間を渡り、好感度の高いシェフと、あくせくと裏舞台で辛抱強く働いているシェフが存在する。現在はもう退職したが、60年代にフランス西部で初めて3つ星を獲得したシェフが、90歳の誕生日を祝った。彼のスピーチは、その料理に劣らず完璧なものだった。
今回、フィガロが彼に敬意を表する。
シャルル・バリエをご存知だろうか。トゥールにあるレストランの三ツ星シェフだ。まだピンと来なくても、気にすることはない。レストラン業界は、光と影が存在する世界だからね。もし、その前者の位置づけが簡単なようだったら、後者は多くの場合、さらに興味深いものといえる。
シャルル・バリエは、変わった経歴をもつシェフの一人である。銀製のスプーンをくわえて産まれてきたとは、口が裂けても言えない。口の中には、本当に何にもなかった。ただ、腹を空かせ、怒りに満ちた子供だった。
12歳で見習いへ出向、虐待と飢餓を味わった。ゾラがラブレーに会ったように、シャルル・バリエは運良くも、料理に出会った。ミシュランが何を意味するかも知らないまま、1つ星、そして2つ星、3つ星と獲得していった。
72歳で破綻し、戦場への再出頭となる。90歳になった今でも、信じられないくらい生き生きとした男だ。彼の目は、キーネームの想起にぼやけ、そのつっけんどんな話し方は、腹の皮がよじれるほどおかしく、彼が作る鶏肉のヴィネガー風味はすばらしい逸品である。
まるで、人生の戦いに生き残った人間の話を聞いているようだった。
「僕の話、うんざりするでしょ?」
何度もこう聞いてくるが、ちょっと目の覚めた精神を維持しようと思うなら、彼に一晩中話してもらうべきだろう。
前回やけどしたのはいつ?
今朝、鶏肉のフランボワーズヴィネガー風味を作っていた時
尊敬する本は?
アントナン・カレムの本と、二ノンの本
パン
これは僕を狂わす賜物だね。あまりにもこだわってしまうもんだから、店には移動式のオーブンや、発酵室まであるくらいだ。パンを一番重視したシェフは、きっとぼくが第一人者だったんじゃないかな。客にいつも一つずつプレゼントしてたね。僕を理解できる最適な方法だったのかも。
ジョエル・ロブション
僕には子供が2人いるが、彼も僕の子供だといっておかしくない。知り合ったのは、彼がこの業界に入ったばかりの頃。彼は常に誠実な男だ。笑えるのは、今でもお互い、敬語で話しかけていることだね。
初期
12平方の木小屋。何でもこなしてたな。皿洗い、サービス、ブランケット、ブルギニヨン。12席しかなかった。珍しくも貧乏な3つ星シェフだったおね。ぼくの母親には子供が8人いて、僕がその末っ子。18ヶ月のときに親父を亡くし、兄弟はみんな無学だったね。僕が12歳で学校をやめた翌日には、平手打ちと空腹の日々が待っていたよ。
パリ?
行く必要があるだろうか?僕の心はこの地に埋まり、道もよく知ってるし、僕が植えた木だってこの地にある。レストランを2件持つことは、やっかいごとが2倍になるということ。たくさん金を稼ぐことは、女や新しい靴や税金の額が増えるということ。
サンドランス
彼のことはよく覚えてるな。奴がまだ1つ星のころに、パリで出会った。奴はそのすごいアルファ・ロメオで、僕を駅まで送ってくれた。1つ星しかないことを辛酸していたな。だから、ぼくにどうやったら3つ星を穫れるか聞いてきたよ。だからこう答えてやった。「うまくやりこなし、常に努力し、最善を尽くすこと、だね」
いい仕草
もう100人くらいはみてきたが、僕が見習いを雇う時、真っ先に目をやるのが、彼らの手だ。すべてがそこに現れている。美しくて頑丈な手が肝心だ。ブーダンみたいな指はいけない。一番華麗な振る舞いは、ソースを振りかける仕草。皿に盛られた料理の上を行ったり来たりさせながら、泡を立てずにソースをかけて行く動作がいい。
後悔
まったくないね。自分から解放されてなくちゃ。
お客様は神様?
そうだね。でも、多くの人が思っているほど柔順じゃないけどね。もし正反対を信じようものなら、シェフはバカ野郎の王様だとも言える。
使えない食材は?
辛抱強さと努力があれば、使えない食材はない。小麦粉を理解するのに、ずいぶんと時間がかかったが、今では小麦粉が、僕の家族的存在になったよ。お菓子、豚肉製品、肉、パン等、僕が何でも出来るのは知ってたかい?
ヒーロー
ジョルジュ・ギンヌメール。子供のころ、郵便局のカレンダーに彼の写真が載っていた。ドイツ空軍の飛行機を45機も撃ち落としたんだ。しかもキャラビンで!僕の母親は、ギンヌメール、ギンヌメール、ギンヌメールって、僕に連唱させてたね。
ナプキン
僕の店のは、1mx80cm。これで安心して食事が出来る。
妻のニコルには、毎朝「愛してる」と声をかける。彼女は僕に、素晴らしい娘を2人も捧げてくれた。彼女が居るだけで、僕は幸せだ。
うざい奴
これに関しては知り尽くしてるね。全く満足しない奴(つまり、僕)。サービスも終わりに近づいた頃、ジャン・ドラポーが、僕に向かって「シェフ、今日はよく働きましたね」と言ってきたから、「十分なんて存在しない。もっと改善できる」と返してやった。疲れ果てた彼は涙を流して、失望していたよ。だから僕は言ってやった。
「泣き止まなかったら、平手打ちを食らうぞ」
ジャーナリスト
このタイプのおだて屋はたくさんみたね。何にも腹に抱えやしない。上辺面だけで馴れ馴れしくしてくる。僕は誰にも挨拶のキスはしないね。よくわからないし。もしそんなことしてたら、客なんていなくなっちゃう。
1つ星
1958年だった。ミシュランの人間が、わざわざ店まできてそれを報告してくれたよ。そんなガイドブックがあるなんて聞いたこともなったな。おめでとう、と称賛した彼は、ミシュランガイドに載っているうちは、自分の所のシャンパーニュを買え、という。なにせ皆そうしてるからって。翌年、奴は解雇されたって聞いたな。
見習い時代
パリのあるブルジョワの家で味わった出来事は、ショックだったな。初めて、僕の名を呼び捨てにしない人にあった。その人達は、殴り掛かってもこないし、僕は初めて空腹を感じない日々を過ごしたね。
償い
何にもない、という事実にかなりの辛酸を味わったものだから、客のためにならなんでもやったね。ココナッツでできた花じゃなくて、大きな花のブーケ。各テーブルには銀製のカートリーと金メッキのスプーン。ぺてんにかけられ、それをウェイター達が耳打ちしてくれたが、「これもいい広告だ」と返してやったね。
また、砂糖細工のお菓子を作るために、パティシエをフルタイムで12年間も雇っていた。イースターには、窓から小さなひよこが顔を出す巨大な卵も作ったな。
死
死は怖いわけじゃないが、ただ一つ気になることと言ったら、僕を好きな人たちを悲しませることかな。72歳の時、危険すぎる賭けにでて、再度レストランを持ったときには、ありったけの金を使い果たした。すべてを失った僕は道に放り出され、銀製品やいいワインはばらばらに売りさばかれた。なんという不幸だったな。妻と一緒に銀行へ向かい、そこで1億を借りた。必死で戦って、7年後には全部の借金を返したもんだから、銀行の人間が、カンヌ映画祭に、僕らを無料で招待してくれたもんだ。
最悪の食事
ラペルーズが3つ星だった時代に、どんなものが食べれるかを試しに行った。なんのその。解凍しきれてない野うさぎのシベに、沸騰したてのソース。3つ星がこんなものだったなんて糞くらえだ、と思った。
アドバイス
焼き上がったパンには小麦粉を振りかけないこと。何の意味もないし、まっさらのいい格好がだいないになってしまう。
ハーブとスパイス
あ。指先の几帳面な作業を必要とするね。ミリグラムの差が肝心。オマール海老にカイエンヌ?反対ではないが、「おい俺はここにいる」って主張しないくらいの量を操る必要がある。
ダイエット
テーブルから離れた後では、賛成。
若いシェフへのアドバイス
まず、鏡をのぞいて、自問自答してみることだ。「これが本当にしたい仕事か?」
その次に、いい食材を求めすぎる、ということはないということ。
最後に、卸業者がプレゼントしてくるシャンパーニュは断ることだ。
一番いい言葉
客にとって、名字で呼ばれることほど嬉しいことはないだろう。「ボンジュール、ムシューデュロン」てな具合に。初めての車が35歳の時。
若さの秘訣
いつもいつも働いてきた。それだけ。必死で戦った。それから、妻を愛していること。
鶏肉のフリカッセ、フランボワーズのヴィネガー風味
調理時間 25分
加熱時間 30分
4人分
- 鶏1羽(約1 ,8 kg)
- バター 80g
- 生クリーム 100g
- ざく切りにした新鮮なトマト 4つ
- フランボワーズのヴィネガー 25cl
- みじん切りにしたニンニク 2片
- みじん切りにしたエシャロット 20g
- みじん切りにしたパセリ スープスプーン1さじ
- 塩、こしょう
鶏を6つに切り分ける。
ココット鍋に、50gのバターを溶かして、熱くなったら鶏肉を入れ、塩こしょうする。
ゆっくり焦げ目を付けてから、蓋をする。5分たって鶏肉をひっくり返し、再度蓋をする。弱火で10分ほど加熱する。
余分な油脂を取り除き、エシャロットを入れる。よくなじませてながら、鶏肉といっしょによく混ぜる。
フランボワーズのヴィネガーを加えてデグラッセし、水分が半分になるまで加熱する。
トマトとみじん切りにしたニンニクを加え、蓋をして更に5分加熱する。
鶏肉を取り除いてから生クリームを加え、水分が半分になるまで加熱する。
鍋を火からおろし、30gのバターをいれてよく混ぜる。
再度鍋を火にかけて、沸騰させずにゆっくり混ぜながら加熱していく。
味付けを確認してから、鶏肉を皿に盛り、ソースをかける。みじん切りにしたパセリをのせて、出来上がり。
By F.Simon