お気に入りの店を10件上げてくれと言われたら、今すぐに思いつく店は「イティネレール」だろう。
そう、ポール・ベール通りの旧オータンオータンのシェフだ。店の雰囲気、ワインの種類、サービス、どれをとってもいい。今回で3回目だが、この店で過ごす時間は毎回最高だ。
Itinéraires
5, rue de Pontoise - 75005 Paris
T. 01 46 33 60 11
日月休み
Photo/F.Simon
セヴロへ来ると、メニューを開く必要はないと思うことが多い。黒板メニューでさえ毎回必須だとは思わない。というのもここの客はみんな、牛の背肉やタルタル、子牛の胆肉を味わいに来ると決まっているからだ。
この店では、ユーゴ・デノワイエの格式あるメゾンから肉を仕入れている。多くの客が、オーナーを下の名前でよび、店に足を踏み入れた瞬間から、何を食べるかすでに大方は決めている。
それもそのはず。このプラント通りにあるレストランに予約の電話を入れた時点から、客はすでに、この店のテーブルについている自分の姿を想像しているからだ。
それもおかしくはない。
レストランに来る喜びは、たいていの場合、その店へ向かう準備だったり、待ち時間だったり、どんどん膨らんでいく欲望だったりするからだ。
厨房の奥からは、加熱台の上で肉がジュージュー振動している音が聞こえる。そして調理後のそれは、一番シンプルな格好、つまり真っ裸もしくはそれに近い状態で、メトロノミカルに運ばれてくる。
タルタルときたら、はつらつとした最高の状態で、棍棒で一発殴られたかと思うくらいのショックをくらう。
ここで食べる料理は全部こうだ。隊長みたいなメイン料理。
魔法のような揚げたてのポテトフライも、「裸」という意味で真実により近い。
頭をかがめて料理を口にいれ、よく味わってから、ワインも口にする。かみ締めるように寒い冬の中、どんどん麻痺していく自分がわかる。
こんな経験の後には何が出来るだろう。
カリカリに焼けたパンの上にのったシャヴィニョルチーズのかけらをとって、ワインを飲み干し、満喫して赤くなった目で、店を後にした。
客層 : 並外れ。きっと、一般人に変装したどこかのシェフたちだろう。彼らはいつも保安機動隊みたいな格好をしているから、見分けるのが簡単である。それから、ブルジョワの柄が悪くなった版、というよりやくざといったほうが近い連中。それから、常連さんと戦場にきた食欲たち。暖かい雰囲気のなかでぎゅうぎゅうにくっついたテーブルは、いい店である証拠だ。
サービス : ムッシュー・ウィリアムが皆をまとめている。真剣に見張りつづける彼は、身をかくしながらいいワインとポテトフライを客席へ投げつける。正弦曲線上のユーモアの持ち主だが、この夜、彼はどうやら雲の中にいたらしい。平然として機嫌がよかった。実は毎回、よく観察するべきなのかもしれない。
価格 : 一人約50ユーロ。でも黒板メニューのワインメニューからは地獄行きのボトルが見つかる。
行くべき? : イエス
Le Severo
8, rue des Plantes - 75014 Paris
T. 01 45 40 40 91
土日休み
Photo/F.Simon
ティエリー・ビュルロがつくる料理は、束縛されない透明な料理の分野に属していて、その邪魔にならない程度の控えめなデザイン心は、常に味わいの中心に感じられる。
ゼブラ・スクエアの改装オープンに際して、彼自身もここへ投資した。
柔らかい光、どこから来たのかわからない客層、ブランド名が確立していないウェイターが行き交う中、ラウンジホテルを思わせるような雰囲気だった。
Zebra Square
3, place Clement-Ader – 75016 Paris
T. 01 44 14 91 91
1人60 euros
www.zebrasquare.com
Map
Photo/F.Simon
エリック・ブリファール Eric Briffard の新しい料理を味わいに、ジョルジュサンクへと向かった。
文字通りに魅惑のピチヴィエを始め、 鴨、うずら、季節の野菜、すべてにおいて最高だった。
料理に写る燃え上がるような正確さは病気的。
さらにコルナスのワインが空から舞い降りてきて、この宵を締めた。
我に返ったら辛口の勘定。
ずいぶん注意して頼んだのに、2人で506ユーロ。
明日のフィガロ紙をお楽しみに。
Le Cinq
Hôtel George V
31 avenue George V - 75008 Paris
T. 01 49 52 70 00
Map
www.fourseasons.com
Photo/F.Simon
友人のタンは、時々惨めな安食堂へ僕を連れて行く。
まずい軽食屋に連れて行かれたことも2度あった。彼らしくはない。
でも、ぼくらの話題は食にはないから、特に気にしないでいた。
それでも彼は気を遣ってか、ここ2回続いたフレンドリーなランチは本当においしかった。
まずは、ようやく戦場に戻ってきたアラン・デュトゥルニエのSYDR。
そしてウディノ。
店にはシェフの妻であるフランソワーズと、エイコと名のる日本人の女の子がいた。
前菜は、丁寧でフレンドリーで7区っぽい洗練感が見られた。
そうしているうちにこの女の子、有名シェフの名前を並べては、かたっ端からめった切りにしていった。
この狂暴さにはさすがの僕も面食らった。短気な車がウィンカーを点滅させずに車線を変える感じ。
怖いもの試しに、そこいらでうまいとはやされているレストランに、彼女を連れて行きたくなったくらいだ。
とにかく、このレストランは新発見だったが、うまかったし盛りつけもよかった。
Oudino
17, rue Oudinot – 75007 Paris
T. 01 45 66 05 09
www.oudino.com
Photo/F.Simon
不景気。
直に影響をうけるのはレストランだ。彼らにとってこれほど痛いことはない。
だから、僕ら料理評論家がそれを分析するにあたって、基準は今までと変わってくる。
道具箱へ斧や釘抜きを片付けるだけではものたりない。一生懸命仕事しているのに危険、ということほどつじつまが合わない話はないからだ。
テーブルには、思いやりの何かが僕を覆うが、この蜂蜜は決して意地悪心からきたものではない。
ちょうどそんな機会に恵まれた。
土曜日の夜、僕は一人で宮本輝の小説を片手にアヌシーのレストランにいた。幸せな男の中でも、僕はその頂点にいただろう。
メリーゴーランドみたいに、僕の口の中で食材の風味がぐるぐるまわった。小豆、栗カボチャ、煎ったカボチャの種、若芽、キノア、ほうれん草のソテー、ハーブ風味の豆腐クリーム等々。健康でバランスがよく、わかりやすくて親切。
時々、役者配分が多すぎて、皿のふちまでにそれがはみでていることもあった。また、このビーツのスパゲティーみたいに、口に入れるのが困難なものもあった。
しかし、行儀よくて高潔なお客向けの寛容さが充満していたから、そんな細かいことは気にしないでおこう。
時々、レストラン自体がすごくなくても、風味が完璧でなくても、いい方向へ道が伸びているのを感じることができるだけで満足できることがある。
たとえ、無駄が多くても、道に迷っても、失敗しても、大切なのは、厨房から鼻歌が聞こえることだろう。
Nature & saveur
ローランス・サロモン Laurence Salomon のレストラン
ランチ 火曜〜土曜
ディナー土曜の夜、フィクスメニューのみ
Place des Cordeleirs - 74000 Annecy
T. 04 50 45 82 29
1人49ユーロ。ワインメニューは安価なものから。
Map
Photo/F.Simon