ハノイに来たなら、大きな湖のそばにあるレストラン「Sen」へ必ず行くべきだ。
それも土曜の昼か日曜日がおすすめ。店内はびっくりするくらい巨大で、最低でも観光バス20台分くらいの客が収容できるだろう。この日も、何千人もの客の中を、食べ物と走り回る子供達と韓国人観光客と着物の日本人がにぎわっていた。
周囲のスペクタクルに気がとられ、セルフサービスの平凡な料理を忘れてしまう。
平和な狂気の一時だった。
Photos/F.Simon
メトロポルホテルのレストラン「スパイスガーデン」の料理人、ヴァンと一緒に、この日は高層ビルの中にある小さなレストランへ犬料理を食べに行った。
なんと言ったらいいのか、ヴァンの前では元気ぶって冗談を飛ばしたりしていたけれど、内心では冷や汗をかいていた。特に、発酵エビの強烈なソースを前にしたときには降参してしまいそうになったが、この体験を懇願していた僕はここで引き返すこともできなかった。
煮込み、グリル、長時間加熱、犬の身は仔羊のそれに少し似ていた。
そうはいっても、もし次回このレストランに僕を招待してくださるというなら、ふとした瞬間に僕が消えていても驚かないでほしい。荷造りをしているはずだから。
Tuan Thitcho
rue Nui Truc
24階
Photo/F.Simon
べジタリアンの店を一軒。レストラン「ヴェルティカル」のシェフ、ディディエ・コルローお勧めのこの店はCom Chay Nang Tam。
迷路の奥底にあるから見つけるのに一苦労。
装飾(塗り直しとネオン)が嘆かわしく、茄子のピーナツ和えはちょっぴりぼてっとしていたが、料理自体は悪くない。
Com Chay Nang Tam
Phố Trần Hưng Đạo, Hà Noi, Hà Nội, Viet Nam
(0)49 42 41 40
Map
Photo/F.Simon
いじわるなハノイの美食パラドックスはといえば、高級と名のつくレストランはどこかズレている、ということである。
「クラブ・ド・ロリエンタル」がそうだ。手の込んだデコ、いい感じの店構えと言う事なしのサービス。でも出てくる料理がうまくない。
この日は自分へのご褒美にちょっと贅沢をして、オマールのレモングラスとマンゴーのソーズ添えを注文した。
しかしオマールは綿みたいにまずく、加熱し過ぎでいけなかった。きっと強烈にそして乱暴に蒸しすぎたせいだろう。
また、細かい事を言えば、殻を割るために使うハサミをウェイトレスに頼んでいたのだけれど、結局持ってきてもらえなかったのは悲痛だった。
Club de l'Oriental
22 Ton Dan st.
T. 38 26 88 01
Photos/F.Simon
ホテルの隣りにはフランス文化センターがあって、ベトナム人若手アーティストが展示会を開いていた。
そこで滑稽だったのが、かなり厳しい政治体制にあるこの国で、昔のクロッキーのようなタッチの、人民団結心を賞賛する作品。しかも現代的パロディー描写の中、見事なほどの不公平さも嘲笑してもいた。
雨はいっこうに降り止まず、ラッシュアワーの大通りを横切らなければならないこともしばしば。
金属塊の流動の中へ身を乗りだすものだから、こんなに妙な体勢になってしまう。かなり危ないが大抵はうまく行く。
フィリップ・キャトリンの歌みたいに、クラブで足からつり上げられているみたいな気分だった。
Photos/F.Simon
道ばたにあるレストランが、ハノイの機知であることは皆さんにも想像がつくだろう。
夜の湿気の中で、大きくて上手な平手打ちを食らったみたいに、開いた口がふさがらない僕は、完全に魅了されていた。
だから国際的な店や怠惰な店には、衝撃的なものが足りなくて、街で多くの人を呼ぶこの手の道端レストランとはまるで比較にならない。
生活の信じられないようなフュージョンの中、春巻き、揚げ物、フォースープ、葉っぱに包まれた焼き魚等に分かれた多くのスタンドをもつ Quân Bôi Chàu も、そんな道端レストランの一つだ。驚愕される雰囲気だった。
Quân Bôi Chàu
Quân Hoàn Kiem
T. 39 42 81 62
Map
Photos/F.Simon
おかしな話だが、すこし時間が経つと、精錬された料理が食べられることが売りの欧米人観光客向けレストランは、ちょっと無防備すぎはしないかと感じるようになる。
クラブ・ド・ロリエンタルClub de l'Orientalの好評は完全に間違ったものだったし、ル・ワイルド・ロチュスLe Wild Lotusでは、ショートパンツ姿のアメリカ人の若者たちが激安の価格付けにぷっと笑い出す様子に、こちらが居心地の悪い思いをした。
正直、そこにいる自分が恥ずかしかったものだから、道に飛び出した僕はようやくほっとできた。場所はいいのに、残念だ。
それでもこのジャンルのレストランは、といえば、ディディエ・コルルーのヴェルティカルをお勧めしよう。常に完璧とはいえない大胆さはイチゴのエビ料理に表れていたが、料理とベトナムに寄せる情熱をもったその仕事ぶりは説得力がある。
隣りには珍しいスパイスや新鮮なコリアンダー等が選べる小さくて素敵なブティックも。
Verticale
19, Ngo Van So
T. 49 44 63 17
www.verticale-hanoi.com
Photos/F.Simon