ブルターニュという地方は、腰をあげるのに時間のかかる大陸である。
数十年前から、いついい料理が食べられるようになるのか、と待ちこがれている人間が数いる反面、本人は道で立ち往生し、昼夢をみたり、思い切って第一歩を踏み出さずにいた。
ブルターニュは、妄想していたのだ。
それも悪くない。
今回は、最近オープンした店や、前からあるのに不幸にも忘れられていた店をご紹介しよう。
みなさんもご存知のように、ブルターニュは、僕のお気に入りの地方で、あまやかされてもいる。ここで紹介する店を、自分のためだけに取っておいたほうがいいのかもしれない。しかし、僕の気質がそうは許さない。いい店は、思ったほど数がないのだ。
確かに、カンカルには、すごい「メゾン・ド・ブリクール」を所有する、オリヴィエ・ロランジェがいて、それは確かに、群を抜けている。しかし、彼しかいない、というわけではない。
モダン化に失敗した店、昔のパリでよく見たような店、ミシュランの星狙いに疲れ果てた店は、多々目にする。その中で、他者には目も向けず、カメラのレンズも気にしない新鮮な店が、残っているのも事実だ。それらは、自己評価の中で生き抜き、ブルターニュのエスプリをそのまま表現しているレストランである。
ローベルジュ 最高な薄明かり
この店には、強烈な台風の中、地面と平行にふく突風に肩を丸めるような夜に、訪れたかった。
新しくオープンしたレストランは、ロマン・ポランスキーのTESSスタイルを思わせる、19世紀調の雰囲気をもち、僕が思い描いた環境から、程遠いわけではなかった。港付近の迷路みたいな裏道で、ずんぐりしたシルエット、感銘してしまうほどの石垣、神聖なる薄明かり、暖炉には火が起こされ、木製のテーブルにはろうそくが灯されていた。
サービスには、いい顔ぶれがみられた。ここで料理を運ぶ事が嬉しくてたまらない、といった表情の太ったおばさんたち。なんという新鮮さ!
続きも、予想通りで、いい料理が次々と運ばれてきた。赤貝とあさりのパピヨット風、サーディンのパイ、鱈と小さな野菜、タコのカルパッチョ、エスカルゴ、羊のひざ肉、いちごのタルト。
すべての料理が、しっかりしていて、優しくて、完璧に成功していた。肩の力が抜けて、何と美味な経験だろう。うまくチョイスされたワインは、ムーラン・ア・ヴァンタイプの、クリストフ・パカレ Christophe Pacalet 2007年が25ユーロ。
2006年以前、パリの「シャトーブリヨン」で腕を鳴らした、ジェーン・オーフライ Jane Aufray が作る料理は、今回のベストレストラン。
L'Auberge
24, rue Guesno
29770 Audierne
Tel : 02 98 70 59 58
Photos / F.Simon