SIMON SAYS! JAPON

ブルターニュへ往復旅行

雲が頭上をぐんぐん進み、粗雑でまっさらな空気が流れ込む。タフなカンカルで、オリヴィエ・ロランジェは、しっかりと起立していた。
深海のホタテ貝のマリネ、手長海老の身とアボカドが入った、海賊みたいなコンソメ。そして、「インド帰り」の定番料理の真鯛。
そしてまた、胸を弾ませながら、電車で帰路につき、眠りに入る。

Photos/F.Simon

旅行 ブルターニュ地方ポール・マネック

 

By F.Simon

ブルターニュ ローベルジュ 最高！

ブルターニュという地方は、腰をあげるのに時間のかかる大陸である。
数十年前から、いついい料理が食べられるようになるのか、と待ちこがれている人間が数いる反面、本人は道で立ち往生し、昼夢をみたり、思い切って第一歩を踏み出さずにいた。
ブルターニュは、妄想していたのだ。
それも悪くない。
今回は、最近オープンした店や、前からあるのに不幸にも忘れられていた店をご紹介しよう。

みなさんもご存知のように、ブルターニュは、僕のお気に入りの地方で、あまやかされてもいる。ここで紹介する店を、自分のためだけに取っておいたほうがいいのかもしれない。しかし、僕の気質がそうは許さない。いい店は、思ったほど数がないのだ。
確かに、カンカルには、すごい「メゾン・ド・ブリクール」を所有する、オリヴィエ・ロランジェがいて、それは確かに、群を抜けている。しかし、彼しかいない、というわけではない。
モダン化に失敗した店、昔のパリでよく見たような店、ミシュランの星狙いに疲れ果てた店は、多々目にする。その中で、他者には目も向けず、カメラのレンズも気にしない新鮮な店が、残っているのも事実だ。それらは、自己評価の中で生き抜き、ブルターニュのエスプリをそのまま表現しているレストランである。

ローベルジュ　最高な薄明かり

この店には、強烈な台風の中、地面と平行にふく突風に肩を丸めるような夜に、訪れたかった。
新しくオープンしたレストランは、ロマン・ポランスキーのTESSスタイルを思わせる、１９世紀調の雰囲気をもち、僕が思い描いた環境から、程遠いわけではなかった。港付近の迷路みたいな裏道で、ずんぐりしたシルエット、感銘してしまうほどの石垣、神聖なる薄明かり、暖炉には火が起こされ、木製のテーブルにはろうそくが灯されていた。
サービスには、いい顔ぶれがみられた。ここで料理を運ぶ事が嬉しくてたまらない、といった表情の太ったおばさんたち。なんという新鮮さ！
続きも、予想通りで、いい料理が次々と運ばれてきた。赤貝とあさりのパピヨット風、サーディンのパイ、鱈と小さな野菜、タコのカルパッチョ、エスカルゴ、羊のひざ肉、いちごのタルト。
すべての料理が、しっかりしていて、優しくて、完璧に成功していた。肩の力が抜けて、何と美味な経験だろう。うまくチョイスされたワインは、ムーラン・ア・ヴァンタイプの、クリストフ・パカレ Christophe Pacalet ２００７年が２５ユーロ。
２００６年以前、パリの「シャトーブリヨン」で腕を鳴らした、ジェーン・オーフライ Jane Aufray が作る料理は、今回のベストレストラン。


L'Auberge

24, rue Guesno
29770 Audierne
Tel : 02 98 70 59 58

Photos / F.Simon

カンカル旅行

 

Restaurant Le Coquillage
Le Buot
35350 Saint Méloir des Ondes
www.maisons-de-bricourt.com

Breizh Café
7, quai Thomas - 35260 Cancale
Tel : 02 99 89 61 76
www.breizhcafe.com

By F.Simon

ブルターニュ 一番お気に入りの店

サン・メレオールの店は、ブルターニュ地方で、僕が好んで行くレストランリストに必ず入る。
感情的だから、という所以もあるが、肉感的だからでもある。
僕は海、波のうねり、そして海風が好きだ。そして、ジャンとオリヴィエ・ロランジェの店も。これほど簡単なことはない。
数週間前に、この店のアドレスをメモしていた。ブルターニュ料理を味わう幸福。そう、頑固でダイレクトな料理。
ジャンとオリヴィエ・ロランジェのレストラン「コキヤージュ」で、その幸せを味わうことができる。この最優秀シェフが、ブルターニュで一歩身を引いてからというものの、彼の料理にやさしさと繊細さが加わった。彼は今、満悦する、というピリオドに突入し（それは、クトー貝とウニの生姜風味の一皿に表れていた）、そこには、温情ある寛容さが感じられた。

ミシュランからのストレスは、他の店へ追いやったので、三段滑車の名選手並みの料理を構築することもなくなった。
その結果、静かな朝を満喫することだって出来るのだ。

Coquillage de Jane et Olivier Roellinger
à Saint Méloir des Ondes
Tel : 02 99 89 64 76
コース　２６～１００ユーロ

Photos/F.Simon

サンマロとカンカル ２２ユーロと１４ユーロのラングスティン

店頭に立っているメニュー版を見比べている人たちを目にすると、料理は値段だけじゃない、と言いたくなる。たしかに、節約したい信念があってのことだろう。だが結局、値段の違いは、皿の上に出てくる。不思議な話は何もない。
ラングスティンが好物な場合は、どうしたらいいのだろう。
まず、サンマロの「ア・ラ・デュシェス・アン」に予約をとろう。２４ユーロもするが、かなりいい。
でなければ、知ったかぶりをせずに、カンカルの「ピエ・ドゥシュヴァル」を試してみるといい。１４ユーロのそれは、臆病で限界がある。紙ナプキンと小袋に入った手洗い用ナプキンがごちゃまぜになって、うまくもなかった。

だから、迷う必要もない。
「ア・ラ・デュシェス・アン」を後にした僕は、幸福感に浸りながら、サンマロの城壁近くでイタリアンアイスを、自分にごちそうしてしまったくらいだ。そんな一方で、「ピエ・ドゥシュヴァル」を後にした僕は、カンカルの街を逆流していった。そうする方が数倍気持ちよかったからね。
この話にモラルはあるのか？ Never !

À la Duchesse Anne
5, Place Guy La Chambre
35400 Saint Malo
Tel :  02 99 40 85 33

Pied d'Cheval
10, quai Gambetta
35260 Cancale
Tel : 02 99 89 76 95

Photos/F.Simon

カンカル ブレイツカフェのすべて

アイデアがいい時には、必ず継続性がついてくる。論理的に、笑顔と店のエスプリが感じられるところ。
ブレイツカフェのチームが、カンカルに姉妹店をオープンした。今回は、地上階のクレープ屋だけではなく、２階に和食レストラン、そしてその上には、カンカル湾が見渡せる、民宿ホテルを完備した。（一泊８９ユーロから）
ここで旅行の全行程が満喫できる、といっても大げさではないだろう。
ウェイターの情熱がこちらにまで感じられ、料理もなかなかよかった。ナイフとフォークがないのかと尋ねたり、靴を脱いで上がるのに戸惑ったりしている、現地の人間の、感動的でもある手探りな状況を横目で見ながら。

ハーフパンツとバナナ形のリュックで海岸線を散歩する旅とは、またひと味違う。

Breizh Café
7, quai Thomas
35260 Cancale
Tel : 02 99 89 61 76
www.breizhcafe.com

Photo/F.Simon

プーリゲン ああ悲惨、またもやトイレの横

ほらまた最悪なレストランにやってきた。「デュゲイ・トゥルーアン」。
技術的には真剣さが見られ、まじめなディナーシーンには完璧だろう。この海岸沿いで一番ましなレストランに違いない。
そんな面ではいうことなしだ。
しかし、僕が案内されたテーブルが最悪だった。トイレと玄関を行き交うすきま風の中での食事！こんな悲惨なテーブル席は大抵大きな花束を飾って匂いを中和させるのが通常だろう。
確かに僕は、いい本（この日は例のジム・ハリソンの本）と優しい料理さえあれば、動揺させえられずに食事ができる習慣が身に付いてきたとはいうものの。
昨夜同様、海岸を通ってホテルにへ戻った。何たる歓喜！
明日はサン・パオロへむけて再出発。もっとすごい歓喜が味わえるに違いない。

Duguay Trouin
26, quai Jules-Sandeau - 44510 Le Pouliguen
T. 02 40 42 32 05
Map

Photos/F.Simon

プーリゲンにて ジョン・レノンを前に夕食

おかしな話だが、一人で旅行に出るときに限って特にまずいレストランに遭遇する。
精一杯でご機嫌なレストラン「ヴォワル・ドール」は最近オーナーが変わったらしいが、ここほどまずいレストランは他にないだろう。
この地方にとって悪くはない笑顔も、よそから盗んできたものだ。

この日、メニューに載っていない、いいボルドーワインとチーズの盛り合わせで快適なディナーをすませた。
アナイス・ニンがヘンリー・ミラーに綴った手紙に灌漑されながら僕がこの日巡り会えたチャンスはと言えば、思春期のぼくのヒーロー、ジョン・レノンのポートレートが目の前にあったことだろう。
幸せは意外と複雑なものではないかもしれない。

この夕食の前に、アペリティフにむかった店は是非おすすめしたい。ラウンジバーと軽食が食べれる「ル・トノー」。
食事の後は、ブノア海岸を横切りながら、歩いて僕のホテル「ル・サン・クリストフ」まで帰った。

La Voile d’Or
14, rue de la Plage
T. 02 40 42 31 68
Map

Le Tonneau
2, place du marché
T. 02 40 15 15 15
Map

Photos/F.Simon