今回の旅行を進めていく中で、幸運にも、東京・青山にある「クレアシヨン・ド・ナリサワ」のようなレストランを訪れることができた。
はっきり言って、ここまで訪れたレストランでは、ガストロノミーを味わう上で重要な、ある種の要素が欠けていた。だからといって、それらのレストランに、誠実味や素晴らしさがなかったわけではない。ただ、しばしば、メニューや価格の上ではかなりの存在感を持ちながら、皿の上ではその効果を発揮しきっていないような、著名シェフから置き去りにされた、ある種の空虚感が感じられていた。もちろん、シェフは厨房にいて料理を創ってはいるが、彼らはその著名シェフ自身ではなく、セカンドあったり、そのまた下のシェフであったりしていた。大抵、客はそのシェフの著名度から、彼らのレストランへ足を運ぶものだが、デュカス、ボキューズ、ガニェール、ブラ、ロブション等の本物のシェフは、その厨房にはいない。
しかし、ここは違う。
うまく言葉で説明できない、なにか気持ちいいものを感じる。
料理は、人間らしさを感じるか感じないかで、うまいかそうでないかが決まる。
その点で、このレストランでは、心から魅了される大切なその要素を感じた。
レストランの名前は、かなり傲慢だが、( 誰もが、多かれ少なかれ既に存在するレシピを、自分なりに再現しているこの時代に、本当に料理を「創造」しているのだろうか?)少し時間をかけてでてきた、バニラとトマトのオマールの一皿のように、生き生きとした才能を感じる。
他の大きなレストランでは、サービスの遅滞は欠点に値するだろうが、ここでは、それさえも、心打たれる一要素になっている。シェフは、自分の中の精一杯を出しきり、普段よりももっとうまく料理をしたがっていたに違いない。
もし、もう一度東京に来て、フランス料理のインスピレーションを最もうまく取り入れたレストランを訪れなければならないならば、僕はこのレストランを指名するだろう。
席数は少なく、それが、女性オーナーによって訓練された、サービスの質を上げている。
デザート時に、タエコが、すでに6皿目にあたる、ムース・オゥ・ショコラを頼むか頼まないかで、心を悩ませていた。
いつも心うたれる瞬間がある。
www.narisawa-yoshihiro.com