レシピ本が世界中で売り出されている、その偉大な料理人は、常に神経を使って人生を渡ってきた。
食世界の人間なら、誰もが一度は目に又は耳にした事のあるだろう「Saveurs de Chine (中国の味わい)」の再発行を準備中。この20年で、中国の味わいは大きく変化した。それを彼が彼なりに、明細で学識高く説明している。
フィガロマガジン誌の取材のため、始めは、数人を集めてのディナーの場で、インタビューを行う予定だった。しかし、トマトのファルシがテーブルにサービスされた瞬間、彼を質問攻めにしてしまうことに気が引けてきた。
その後、ケン・ホンは海外へ飛んだ。だから、結局は電話でのインタビューになってしまった。
エコーのかかった彼の声は、その心地よい響きから、彼がやわらかい生地でできた部屋のなかにいる様子を想像させた。彼は一体どこにいたんだ?
アメリカ?
タイ?
気にするのはやめよう。
ケン・ホンは、穏やかに彼の情熱を語ってくれた。
つまり、人生。
口にする事が出来なかった料理は?
たくさんありました。どんどん、いろんなものをぐちゃぐちゃに混ぜてしまう傾向がありがちだから。
たとえば?
最近経験したものの中では、フォアグラ寿司。革新的な料理をねらっていたんでしょうが、完全にばかげていました。フュージョンフードという名のもとに、なんでもできると思ったら大間違い。私は西と東の料理をフュージョンさせた先駆者の一人ですが、フォアグラに5つのスパイスの香りを合わせるみたいに、それぞれの文化の長所を尊重した料理でなければなりません。そこに本当の融合があるのです。
常に手元にあるワインといえば?
親しみがわくような、複雑さのないワイン。でも個性ももっているような。たとえば Bandol の赤。本を読みながら一杯頂くのは最高ですね。
悪趣味かも知れないと思う事は?
ポテトチップス!どこにいても、買ってしまう。そのなかでも、フランスのチップスが一番うまい!
最高の料理本は?
たくさんありすぎますが、その中でもずば抜けているのが、アラン・デュカス出版の本。この大きな本を、ベットの中までもって入り、その料理を夢に見ることだってあるくらいです。明瞭で、イマジネーションがきいていて、きっとうまいに違いないから。
モットーは?
私は幸運を運ぶ職人です。人に喜んでもらえたら、それが一番。これこそが仕事にやる気をおこさせ、こっちに幸運さえ運んできます。
悲しいときにすることは?
悲しい時間は、そう長くは続かないな。そんなときには、すぐに厨房へ駆け込み、珍しい事ではないけれど、僕の母親が作った料理を再現します。ご飯と揚げ卵に、蒸した中国製ウィンナー。魔法のステッキを振ったみたいに、悲しみはすぐに消え去ってしまいます。
レストランで、間違った風味を感じることは?
ものを再開発する興味深いマニアックさかな。特にそれがうまかったりする時。
ティラミス、パイ料理、リゾット等。でも、再開発料理はほとんど決定的であったためしがありません。そんな料理が増えるたびに、うまい料理のなかに忍び込んで、結局料理全体を台無しにしてしまいます。
信じられない最高傑作は?
定番だけど、シェイクスピア。素晴らしい瞬間もあるけれど、つまらなかったり、無味な部分が多々あります。料理では、人がうまいと絶賛するもの。たとえば血で煮込んだ鴨肉。北京ダックの方がより風味深く素材に近いと思うのに。
お気に入りの場所、時間は?
タイのパタヤ。10時から1時間、魔法が地球を侵略していく様子。植物が放つ水分が上昇し、昆虫たちは家路につき、ここちのよい熱気の中で、熱帯地方の空気を吸い込む。この瞬間は長くは続かないけれど、これこそ私の時間、私の居場所です。
冬の到来で、香水は変えますか?
愛用している、クリスチャン・ディオールのオーソバージュ一筋です。
プレッシャーに強い方?
はい。私は、体と目と口にいいバランス関係をもっています。自分の中でプレッシャーが大きくなっていくことには耐えられません。
自分の名前を気にいっていますか?
ケンですか?今ではもう特に気に入ってはいません。多くの中国人がしているように、私も本名を名乗る事が多くなりました。私の本名は Wing Fai 。こっちの方は気に入っていて、今では本名を使う方が多いかもしれません。Wing Fai は「輝かしき息子」という意味です。
よく贈り物にする本やオブジェは?
大抵、私の本をプレゼントしますが、ワインをプレゼントすることも多いです。温和で優しいこのプレゼントが開けられる瞬間が好きですね。でも必ずしも、栓を抜いて一緒に味わう、という意味ではなく、喜びを一つその人の家に残してきたという意味で。
音楽は好きですか?
いろんなジャンルをよく聴きますが、とくにジャズ、ブラジリアン、クラシックを好んで聴きます。
好きなレストランは?
パリでは、ル・バラタン。気前がよくておいしいラッケルの料理は最高です。中華料理は、これといっておすすめはないけれど、14区の Noodle King くらいかな。
最高のディナーといったら?
マオ様、ルイ15世、エリザベス1世、カール・マルクス、シャルル・ドゴール、ジャッキー・ケネディを招待してのディナー。