ル・ヴィラレ。
パリのレパブリック広場の横断幕のそばにあるこの店は、すごすぎるワインメニューが評判高い。この日、僕の前に腰を下ろしていた男もしかり。
彼の名はフランソワ・オドゥーズ François Audouze。卸業での成功が、古いヴィンテージワインへの情熱に火をつけた。
彼はシャトー・イッケムを独り占めするために部屋の中に閉じこもっているようなタイプではない。幸せを人と分かち合いたい精神に溢れるいい男だ。頻繁に夕食会を開催し、そこでは毎回古くてすごいワインがお手玉遊びのダンスを始める。
フランソワは、ワインについて語り始めると同時に、感極まって目頭が熱くなる。
感情深いタイプらしい。
彼が料理を口に運んでワインを味わう姿は、まるで暖炉の炎を眺めているよう。こちらが睡眠術にかかった感じだ。
何よりも、彼がワインを選ぶ姿は見物だ。狂気に燃える視線がワインメニューをスキャンしていき、それがある行にくると止まる。
ギガル Guigal のラ・チュルクla Turque 1999年もの。
いくら?
338ユーロ。
こんなときには、背筋を伸ばして大きく息を飲み込んだり、救急車をよんだりせずに、ただ、周囲を警戒しよう。
闇取り引きを数回交わした後にだした答えは明らかだった。
そして注文。
高級なワインには、意味なく敬意を払ってしまう。ラッパを吹くみたいに、友人と気軽に飲むワインとはわけが違う。地味なグラスに包まれた、ささやかな神さまとでも表現できよう。
歴史を感じるワイン。
さて、このワイン。どうしてラ・チュルク(トルコ人)?
裏話はこうだ。
ある日、コット・ロティーの丘に雪が積もり、それが溶けた時に一筋のワイン畑の雪だけが溶けずに残った。その形がハーフブーツに似ていて、その時代「ハーフブーツ」を「ラ・チュルク」とよんでいたからだった。
ばかげた価格のかけ算の裏に隠された大陸を発見した気分だった。
この価格にはフランソワもショックを受けていた。
オーブリヨン1989年ものが3つ星レストランでは6500ユーロというも納得いかない、という。だいたい、こんな価格に合意できる奴はいるのだろうか。彼曰く、レストランはそろそろ足を上げてびんびんの電圧にブレーキをかけるべきだ。そのワインは600ユーロ前後が相場らしい。
さて、ぼくらのワイン「トルコ人」はというと、飛行船みたいにぶんぶんうなっていた。
テリーヌには、親切ないい苦みを感じた。その後、マッシュサラダの小山をくずしにかかると、フランソワから、僕は異人扱いされるはめになった。
何よりもワインがメインだ。まるで、行列の先をゆく王様がワインの存在である。
肉料理も同様の扱いだった。エシャロットが言われるままに、従順極まる食材に変身し、皿の端に整えられた。
さて、そのワインのお味は?
まだ熟成しきっていない、とフランソワのコメント。僕から見てもたしかにそういえる。
それでもワインはテーブルの上で威張りかえっていた。
この後は、チーズ、それともデザートか。
いやいや、僕らは夜のお祈りの真っ最中で、ひざまずきながら自分の番がくるのを従順に待たなければならない。
フランソワはボトルを空けて、精霊的にその残りを飲み尽くした。
規律厳しい聖書に従って・・・。
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Le Villaret
13, rue Ternaux - 75011 Paris
T. 01 43 57 89 76
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パリ11区のレストラン
Photo/F.Simon