SIMON SAYS! JAPON

東京の味 第３話 待ち時間

東京をイメージした時、そのリズムは常に全速力に違いない、と想像しがちであるが、実は、信じられないくらいに時間は停滞している。山ほどの仕事をこなし、帰宅する時間もずいぶん遅いが、そのスピードは決して早いとは言えない。とくに、最高のカプティーノや流行りの料理のためにかける、待ち時間の忍耐力はすごい。
季節は、和とのどかさを連れて変わりゆく。楓の葉の紅葉や、かさご、さわら、マナ鰹、かつお、たちうお、トビウオ、さより、等、旬の魚の到着も。穏やかな雰囲気のレストランで、噂の一番だしを味わうために、順番を待つ瞬間。

Coffee Kappabashi
3-25-11 Nishi Asakusa, Taito-ku
Tel : 03 58 28 03 08
約５ユーロ

Koju
8-5-25 Ginza
Tel : 03 62 15 95 44
www.kojyu.jp
一人約160ユーロ

Photos/F.Simon

東京の味 第２話 身振り

新幹線の車両の中。居眠り客を前に、かわいい女の車掌さんが、丁寧にお辞儀をした後、次の車両へと移っていく。飛行機が離陸する際、飛び立つ飛行機にむかって、係員がゆっくりとお辞儀をする。そんな身振りを目にするたびに、僕らは心温められる。極度の敬意をもった、尊敬文明。そんな彼らの身振りは、あちこちで見られる。小さな子供が、椅子を机に直してから前に回り、静止する。レストランでは、見事な正確さでシェフが魚をさばく。一番見所なのは、彼らの手の動きだ。そば粉８０％と小麦粉２０％からなる、そば作りの過程でも、こねて、たたいて、正確に切り分けて、熱湯に投げ込む手の動き。
おすすめのそば屋は、料理道具販売店が軒を連ねる場所にある。カッパ橋の、一見惨めな店。モーツアルトのバックミュージックと、つるつると麺をすするサラリーマンたちが印象的だ。


Menkobo
2-4-5 nishiasakusa taitou-ku Tokyo-to
Tel : 03 58 06 12 81
約10ユーロ
予約制で、そば作りも体験できる。

Photos/F.Simon

東京の味 第１話 出だしからの猛威

「次郎」でのランチは、驚異的なリズムで進む。この類いのレストランは、他にも２０件ほど存在するが、もっと強烈でデシベル度の高い店は、と言ったら、ここ「居酒屋ロック」。パンクロックと酒、そこに最高なショウガ豆腐がフュージョンした店内は、ヴィンテージ的な雰囲気が漂い、タバコまですえてしまう。
外は、穏やかな丘を思わせる静けさ。そこへ、パチンコ屋の入り口が開くたびに、ものすごい音が流れ出す。そしてまた、星の輝く夜の静けさが戻ってくる。

Sukiyabashi Jiro Honten
Tsukamoto Sozan Building B1F
4-2-15 Ginza
Tel : 03 35 35 36 00
一人約３００ユーロ

Izakaya rock, Let it rock
Daikanyama
Tel : 03 54 59 34 31
一人約45ユーロ

Photos/F.Simon

東京の味 終わりのない振動

もう少しで、完全に見捨ててしまうところだった。その味は、今まで以上に、パワーアップしていたというのに。
ベネチアは、物書きがこぞって通ったインク屋街だったが、今日、東京がそれの後任を引き受けたようだ。
冗漫な街。すべてを打ち明け、自己主張し続ける街。
一体、ここは街といえるのか。
アメリカ人小説作家のポール・テロー Paul Théroux は、否定する。
「ここは、マシーンだ」
それなら、捕まえられるのを待つしかない。
この街の感覚はどうか。その返答には、困難極まる。未公開の世界にやってきたみたいに、数時間この地にいるだけで、西洋での感覚が役に立たない事を察知するはずだ。ここは、世界で一番回転が早く、世界で一番うまいイタリアンが食べられて、きっと世界で一番うまい日本料理も食べられる街。
第一原理を使おうとしても、思い通りには決していかない。

例えば、８０歳をすぎて３つ星を得た、「次郎」でのランチ。メトロの、セピア色をした通路にその店はある。始めての人なら、静寂さと、穏やかなサービスを想像して、店に入るに違いない。しかし、実はその真反対な世界。２４品のものすごい寿司が、文句なしに握られる。あるのは、称賛からくるささやきと、独特な暴力的大波。金切り声を出し続ける３５分の間に、味わう魚はすごい。
そんな儀式の後、地上に出たと思ったら、小股歩きの着物婦人や、典型的な女学生が、僕らの目の前を通り過ぎる。
東京は、予想を絶するサプライズを持った、巨大な波である。節電対策の街は、谷崎と、その作品「陰翳礼讃」を思わせ、また新しい一面をも見せてくれる。
この街に来たら、うってつけのポジションで縛られ、飲み込まれてしまうのを、ただ待つのみだ。

Photos/F.Simon

パリで一番うまいサンドウィッチ？またまた「ル・プティ・ヴァンドーム」

選択肢
ここは、地元の些細なビストロである。しかし、サンドウィッチを頼む際に、２０種類もの具が選べるのはすごい。ベーシックなものから、リエットのパテ仕立て、ハム、オーベルニュのブルーチーズ、コンテ、カンタル等々。具の組み合わせ次第で、何十種類ものサンドウィッチができてしまう。例えば、ヤギのチーズ、ハム、オリーブオイルの組み合わせなら、６ユーロ。その上、本日のサンドウィッチもある。

おすすめ
骨付きハムとバターのサンドウィッチ（4,10ユーロ）。パン屋「ジュリアン」のバゲットと、いい感じのバター、そしてかなり豪華な骨付きハムは、パリジャンが好きそうな、とっておきのサンドウィッチだ。こんなサンドウィッチに出会ってしまうと、人間的に、もう次へと進めなくなる。パンはかりかりで、中はふわふわ。そしてうますぎるハム。

このサンドウィッチに最適なベンチは？
チュイルリー公園か、パレ・ロワイヤルが近くにある。でも、そこに着くまでに、食べ終わっちゃうかもね。

Le Petit Vendôme
8, rue des Capucines - 75002 Paris
Tél. : 01 42 61 05 88
土日休
サンドウィッチが４〜６ユーロ

Photo/F.Simon

ル・グラン・ヴニーズ、ユネスコ世界遺産候補か？

いつか、この類いのレストランがなくなってしまう日が来るのだろう。海面を沈む潜水艦みたいに、深い海の中へと沈没していく。
今夜、僕らは、パリのグラン・ヴニーズに予約を入れた。ジャン＝クロード・ブリヤリーと、フォーブール・サントアントワンヌの内装建築、ロメオと、ルイ・ドゥ・フュネス主演の映画「ル・グラン・レストラン」を合わせて割ったような雰囲気のレストラン。嬉しいけれど混ぜこぜな世界。まるでお笑いミュージカル。昔の牢獄みたいに、オーナーが料理名を歌い上げ、使用人は、遠慮なしにどやされる。
「だめだめだめだめだめ」

そんな一方で、客の僕らは満足げに食事を進める。ガストロノミー界には、きっと、セバスティアヌス的な殉教精神が存在するのだろう。ジャガイモを熱心にむいたり、銀食器をしっかり磨いたり、最後の客がアルマニャックをすするのを、じっと眺めたり。汗を流して働くことに、真の喜びを感じる世界。
そんな中で、料理はどうかとくれば、それも開いた口が塞がらない。どこかしこから、ハムやサラミが飛び出してきて、バターやクリームが山盛りになって運ばれてくる。高速通信なるものは、ここで生まれたに違いないが、かといって、それが必ずしも必須なものではないといえる。ラディッシュと一緒に飾られた、馬鹿でかい西洋ピーマンやトマトが一例だ。食欲がびっくりしてしまうその料理は、過大で、会計は、息がつまるくらいにゼロが並んだ。

Le Grand Venise
171, rue de la Convention - 75015 Paris
Tel : 01 45 32 49 71
一人約１２０ユーロ

Photos/F.Simon

サンセバスチアン おすすめホテル３件

ここのバー「le Swing」もなかなかいいが、コンチャ湾に面した眺めも最高だ。全階改装されて、伝説は続いていく。
Hôtel de Londres y de Inglaterra
calle de Zubieta 2.
Tel. : +34 (0)9 43 44 07 70
www.abbalondreshotel.com
９０ユーロ〜
写真は上に

インスピレーションの利いた部屋がいい、第７芸術とでもいった、モダンなホテル。

Astoria7
Calle de la Sagrada Familia 1
Tel : +34 (0)9 43 44 50 00
www.astoria7hotel.com
９０ユーロ〜

老舗ホテルは、まだ改装中。
Maria Cristina
Republica Argentina, 4
Tel : +34 (0)9 43 43 76 00
www.luxurycollection.com

Photos/F.Simon

サンセバスチアン タパスの狂気

この町にきたら絶対おすすめなのが、旧市街でのタパスバー巡り。白ワイン (txakoli) か赤ワイン(txikito)、又はビール  (zurito)を片手に、あちこちのタパスバーをはしごする。変わったタパスなら、Fuego Negroへ。美味しい生ハムなら、la Cepa へ。Ganbara は暖かいモリーユ茸がのった、キノコのタパスが頂ける。

１４時と２１時３０分の、普通なら食事の時間が、ここではタパスの時間。サービスの始めは、人数が少ない。
５〜６ユーロ。１３ユーロから、pikotes の盛り合わせ等、いろんなコースが選べる。

Astelena
Calle de Inigo 1
Tel : +34 (0)9 43 42 52 45

Bar Bora Berri
calle de Fermin Calbeton 12
Tel : +34 (0)9 43 42 56 38

La Cepa
calle de 31 de Agosto 7
Tel : +34 (0)9 43 42 63 94

Fuego Negro
calle de 31 de Agosto 31
Tel : +34 (0)6 50 13 53 73
 
Ganbara
calle de San Jeronimo 21
Tel : +34 (0)9 43 42 25 75

La Vina
calle de 31 de Agosto 3
Tel : +34 (0)9 53 42 74 95

Photos/F.Simon

サンセバスチアン どこにでも現れるタマネギ

タマネギの産地で有名なロスコフくらい、どこにでも使われている食材。タマネギ。ここの地方料理に優しいアクセントをつける。タパスにもたくさん使われているが、アルサックでも、びっくりするようなものと一緒に出てきた。タマネギとフォアグラの紅茶とコーヒー風味。思い出に残る一品。


Arzak
Alto de Miracruz, 21
Tel : +34 (0) 9 43 27 84 65
www.arzak.es

Photos/F.Simon

サンセバスチアン 大御所からスタート

澄明な野心

２０年来、この地方のレストランは、コンプレックスなしに仕事をこなしてきた。彼ら固有の自由さを、料理にも生かしてきたのだ。確かに、その名を汚してしまうような伝統料理は、この地には大して存在しないのだが。だから、アルサックの父娘シェフは、ネオ・クラシックの道を歩み、 アケラレの Pedro Subijana シェフとムガリッツの Martin Berasategui シェフは、鮮明さと頑固さで勝負している。

しかし事実、ムガリッツを覗いて、大御所レストランでの食事に、感動はなかった。特に、アケラレで食べたデザートで、チョコレートにプリントされたのその文字には、飽き飽きしてしまったくらいだ。

Arzak
Alto de Miracruz, 21
Tel : +34 (0)9 43 27 84 65
www.arzak.es
一人約 130€
 
Akelare
paseo del Padre Orcolaga 56.
Tel : +34 (0)9 43 31 12 09
www.akelarre.net
一人約 120€

Mugaritz
Aldura Aldea 20
Errenteria
Tel : +34 (0)9 43 52 24 55
www.mugaritz.com
一人約130€

Martin Berasategui
Lasarte Oria (8km).
Tel : +34 (0)9 43 36 64 71
www.martinberasategui.com
一人約130€

Photo/F.Simon